32,秋薔薇の君
魔法学校の学生寮は、二十一時から翌五時までは鍵がかけられる。
だから、校舎内の大掛かりな清掃は早朝に行うことが多い。
「っよし」
エリックは歯車の点検を終えると、いつものように校舎に向かった。
「おはよう!」
校舎の清掃を終え、落ち葉を片付けているときだった。
元気な声がして振り替えると、そこには、ソフィア曰くこの世界の命運を握る主人公、ティファニー・アンブローズがいた。友人と待ち合わせていたのか、桜色の髪の女子生徒と仲良く話ながら道の奥へと消えていった。
そういえば、ソフィアが言っていたな。
『ソフィアは低血圧で、朝は遅いの。反対にティファニーちゃんは早起き。だから、早朝の学校はティファニーちゃんにとって安全地帯なんだ!』
なるほど、確かに早朝にティファニー・アンブローズを見かけることが多い。
理科部のニワトリ小屋がある方から来たから、もう、一仕事終えてきたのだろう。
「おはようございます」
今度の声はエリックに向けてのようだ。
声のしたほうを見ると、そこには女子生徒がいた。
「おはようございます」
少し眠そうな顔の女子生徒は、エリックに訊いた。
「もう向こうの庭園は、開いてますか?」
「えぇ。秋ばらが咲いたと、庭師が張り切ってますよ」
女子生徒は安心したように頷いた。
「そうですか。ありがとうございます。作業中のところ、お邪魔をしました」
「いえ、お気になさらず」
丁寧にお辞儀をして、女子生徒は足早に庭園へと向かった。
「新しいイベントか…」
文化祭が終わり、しばらくは落ち着いた日々が続くのかと思いきや、すぐに次のイベントが始まるとソフィアは告げた。
その名も「秋薔薇の君編」。
『女子生徒の間でね、おまじないが流行るの。秋薔薇についた朝露を入れて紅茶を飲むと、一緒に飲んだ人と両想いになれるって』
果たしてソフィアの言った通りそのまじないは、あっという間に流行した。
しかし、秋薔薇は咲いたが、紅茶に入れられるほどは朝露がついていないのが現状だった。
そのため、早朝に庭園へと向かう女子生徒は日に日に増えていく。
「うーん」
ティファニー・アンブローズもまた、庭園へと向かっていた。




