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悪役令嬢ですが、シナリオを順守することに決めました  作者: 飴屋


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30,朗読会

朗読会が始まった。

舞台上に半円形になるようにクラスメイトの数二十五個の椅子を並べて、それぞれ座る。

朗読する人は立ち上がって、そこに照明を当てる。

音楽はなし。

マイクもない。


ただ、自分の声だけで体育館と同じかそれ以上の大きさの場所に声を届けなければならない。


一応は声が響きやすい作りにはなっているそうだけど、客席にたくさんの人がいるなか、大きな声を出すのは緊張する。


一人目は、朗読会の説明や聞いてくれる方にご挨拶する役も兼ねて、学級委員長が。


二人目も、同じくみんなの緊張をほぐし、朗読会の流れを作るための副委員長。


三人目からは、学級委員長がみんなの読みたい詩を聞き取って考えた順番だ。


みんな、思い思いに選んだ詩を読み上げる。

何度も練習をしたかいがあったようだ、大きな問題なく進んでいった。


そして、私の番が来た。


隣の子、アシュリーちゃんと仲良しの子が朗読を終え、椅子に座る。

スポットライトが私を照らしたので、ゆっくりと立ち上がると、ほんの少し観客席からざわめく声が聞こえた。


あの学生が、公爵家の…。

…第一王子の婚約者。

まぁ、なんて美しいかたなんでしょう。


舞台の上でも聞こえてくる声は、全てが称賛の声。


…ここで、声が震えるとかあり得ないわけで。

以前のソフィアなら、心地よい響きだったけど、今の私は足がガクガクしそうだ。

いや、今こそ悪役令嬢の本領発揮!

いでよ、ソフィア!


口もとに笑みを浮かべ、わたくしはカードを持ち上げた。


事前にクレアからティファニーちゃんの用意した詩は聞いていたから、練習は出来ている。

きっと、ビクター様と一緒に選んだのだろう、国を称える詩だ。


カードを見なくても言えるくらいの短い詩を、あえてゆっくりと朗読する。

声が震えないように、最後まで気を抜かないように…。


そしてなんとか、無事に私の朗読は終わった。


このくらいは出来て当たり前、たくさんの拍手を聴きながら、冷静な表情で席についた。

スポットライトが隣の席に移る。

恋の詩、自然を賛美する詩。ちょっと意味が分からないシュールな詩。

あれ、これは、CMで聞いたことがあるような…。


みんなの朗読する詩をしんみりと聞き入っていたら、クレアの番が来た。


ここでとある事件を起きる。つまりは、イベントだ。


報われない恋に泣く人魚の詩を朗読するクレアの周りに、白い煙が現れ始めた。

…後で分かることなんどけど、実は前のクラスの出し物の演劇で使った魔法が残っているのだ。

一種のスモークのようなもの。霧状のそれを作動させる合言葉が、クレアの詩の一文に入っていたので、作動してしまった。


もちろん、クレアはそんなことは知らないので動揺している。


今の魔法は演出かな。


お客さんにはそうみえるけど、クラスメイトと先生だけは違うと理解しているので、素早く視線を交わす。

後は一人だけだけど、中止するべきか否か。


そうこうしているうちに、クレアの朗読は終わった。しかし、霧はどんどん濃くなって行き、椅子に座る私たちの姿を隠し始めた。このままでは、舞台だけではなく、会場全体を覆ってしまうかもしれない。


でも、そこまでの魔法ではないかも。もう少ししたら治まる?


誰もが決断出来ずにいたとき、すっと立ち上がった生徒が一人いた。


もちろん我らが主人公、ティファニーちゃんだ!


ティファニーちゃんは、順番だからと言った落ち着いた表情で立ち上がると、少しよれたカードに目を落とした。


…私が水溜まりに落として汚したカードだ。普通に乾かす時間はなかったから、風の魔法で乾かしたのかな。

文字は滲んだりしなかったかな。

余計な手間をかけた分、ビクター様のお使いは完遂出来たのかな。


霧はどんどん濃くなるなか、ティファニーちゃんは口を開いた。


『雨が降る

土砂降りの雨はいつも急に降ってくる

海も 大地も 私も 全てを濡らして

息もできない』


ティファニーちゃんが優しく語りかけるように朗読を始めた。


険しい顔で立ち上がろうとしていた学級委員長が、はっとティファニーちゃんを見る。


『見かねた美しい鳥が

その清らかな白い翼を大きく羽ばたかせた』


うん!

ティファニーちゃんは詩になぞらえて魔法を使った。

『羽ばたかせた』と口にした瞬間、霧が少し晴れた。


客席から見ている人には、私たちが雲から出てきたみたいに見えたかもしれない。


『生み出された優しく気高い風は

天高くまで 自由に吹き渡る

そうしていつか あの雲を吹き飛ばす』


ティファニーちゃんの口調と同じふわりと優しい風が吹いて、霧は完全に消え去った。


『晴れ渡った空には

きっと虹が架かっている

どうか あなたにも見えますように』


学級委員長はほっとしたように、椅子に座り直した。

勉強嫌いの悪役令嬢では、こうはいかなかった。詩にのせてこっそりと魔法を使うなんてことは出来ない。勉強家のティファニーちゃんだからこそ、出来たことだ。それが分かっているクラスメイトは、ティファニーちゃんを尊敬の眼差しで見ている。


ティファニーちゃんの朗読が生で聞けた。

思わず顔がにやけそうになるけど、我慢。


ティファニーちゃんの朗読が終わり、会場が拍手に包まれる。

良かった。みんな、白い霧は演出だと思ってくれたようだ。


学級委員長が終わりの挨拶を告げ、私たちも立ち上がって礼をする。盛大な拍手の中、黒い幕が下ろされた。


また十五分間の休憩を挟み、次のクラスの発表だ。


私のクラスの片付けは椅子のみなので、すぐに終わる。


「みんな! 大丈夫でしたか?」


慌てた顔で担任の先生がやってきた。

これから、あの霧の発生源を探すのだろう。

…でも、私は悪役令嬢なので。


「疲れたわ。わたくし、部屋に戻ります」


誰ともなく言うと、舞台の上から降りた。

ティファニーちゃんやクレアに何か言われる前に。逃げるが勝ち。

それに、もうひとつ目的がある。


なるべく早く。

でも、ソフィアのイメージを崩さないように。

大丈夫。まだ、消えてないはず。


薄暗い室内から、 非常用の外階段へと続く扉を開ける。


「!」


大きな虹が掛かっていた。


「やっぱり!」


これは、ティファニーちゃんの魔法の残滓。虹の詩を聞いたあと、外に出た観客はこの虹に感動しただろうなぁ。


やっぱりあの詩をティファニーちゃんに読んでもらって良かった…。


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