29,文化祭7
「魔王よ! 覚悟なさい!!」
ー黄金色の髪をなびかせて、赤い宝石のついた大きな剣を掲げたパトリシアは黒いマントに身を包んだ男に向かって叫んびました。
「ふっ、それしきの魔法で俺を倒せると思っているのか!」
ー魔王が手をかざすと、大きな風が吹きました。
「きゃあ!」
「パトリシア様!」
ー大剣を持ったパトリシアが魔王の攻撃を受けそうになったとき、銀色の髪の騎士が駆けつけました。パトリシアをかばうように背に隠し、その炎のような赤い目で、魔王をにらみつけます。
「おのれ、魔王め!」
「ロバート様、どうしてここに」
「パトリシア様。わたしも共に戦わせてください」
「だめです! あなたには帰る家があるでしょう! いずれ王家を継ぐのがあなたの役目!」
「あなたがいない世界など、わたしには耐えられない…」
「ロバート様っ!」
ー二人は大剣を持ち上げると、魔王に言いました。
「魔王よ。これで最後にしましょう」
「二人がかりだろうと、痛くも痒くもないな!」
ー二人は一度見つめ合うと、目を閉じ、大剣の石に魔力を込めました。
ーなんと石から七色の光が、魔王に目掛けて飛んでいくではありませんか。
「なにっ! これは…!」
ー光は魔王を包み込むように大きくなって、やがて爆ぜました。
「負け…た」
ー無念そうな魔王の声が聞こえたましたが、もうどこにも魔王の姿はありませんでした。
「…倒せた…の?」
「そのようです。…パトリシア様、お怪我は?!」
「ありません。…ロバート様、生きてる…?」
「えぇ。わたしも、あなたも無事だったようです」
「…本当に?」
「えぇ。ほら」
ーロバートがパトリシアの手を握りました。すると、パトリシアはホロリと涙を流しました。
「っ! 申し訳ありません。勝手に手を握ってしまって…!」
「良かった。生きてる! 良かった…」
ーそう言って、パトリシアはロバートの手を大事そうに握りました。
「パトリシア様…」
「ロバート様」
ーそうして、二人は末長く幸せに暮らしました。
拍手の音ではっとした。
うん、大丈夫。
ちょっと、うとうとしかけただけ。
周りに合わせつつ、悪役令嬢らしくゆっくりと舞台にいる生徒たちに拍手を送った。
この「救国の乙女と騎士」の舞台は、もちろんこの国の神話を元に作られている。
五百年前のことなので、文章として残っていないので、ほぼ創作だ。
『パトリシアは彼女の騎士と共に魔王を倒し、国を救った』
このロバートさんこそがビクター様のご先祖様であり、後の国王。
合っているのはここだけ。
…だって、本当は魔王様は倒していないもの。救国の乙女パトリシアは、少しだけ力が足りず、魔王を眠らせることしか出来なかった。ただ、長い年月の果て、人々はその事実を忘れ去った。
と言うのがゲームのシナリオであり、『真実』。
「ソフィア様。そろそろ」
「そうね」
クレアに促され、私は観客席から立ち上がった。
この舞台の後、十五分間の休憩をはさんで私たちのクラスの朗読会は始まる。
…因みに、準備はみんながやってくれる。
悪役令嬢は椅子を持たないし、持つという発想もないのだ。
「ソフィア様。カードはお持ちですか?」
念のためか、クレアが聞いてくれた。
詩が印字された特別なカード。
紙も特別製で光にかざすと角度でキラキラ光る。
業者に特別発注したらしい。
…だから、これを持っていなかったらかなり目立つのだ。
それでも慎重な学級委員長は、予備を持っているらしい。印字できなくても、手書きすればいいものね。
だから、ギリギリのあのタイミングでしか、ティファニーちゃんと交換はできなかったのだ。
「…これね」
私はティファニーちゃんから奪い取ったカードを見せた。
「えっ、ソフィア様。番号が違うようですが…?」
遠慮がちにクレアが言った。
カードの端にある番号。それは、読み手の席の印。
この朗読会での私の席順は、最後だった。
ゲーム本来のティファニーちゃんの位置もそこだった。
確かにあの詩は、最後に読むのが相応しい。
でも、このカードでは最初から五番目。
「あぁ。カードが汚れたから、交換したの」
順番は特に気にしていない。
そんな雰囲気を作りながら、クレアに言った。
でも、…少し緊張する。
あの詩を、ティファニーちゃんに読んでもらうことになるけど、クレアは怒らないよね…?
「五番目…。ソフィア様はよろしいのですか?」
クレアが慎重に聞いた。
本来の五番目は誰かはさすがに覚えていないようだ。
「えぇ。…出なくても良かったかしら」
新しいカードを用意させます!
なんだかそんなことをクレアが言い出しかねないので、なんとか引き留めなければ!
「いいえ! ソフィア様が出ない朗読会など、何の意味もありませんわ」
クレアのフォローがなんだか大袈裟だ。でも、ここは悪役令嬢的には微笑むところ。
「まぁ。クレア、ありがとう。…なんだか、喉が乾かない?」
「そうですね。朗読会の前ですから、何か飲み物が必要です。確か、控え室に用意があったかと…」
よし!
意識をそらすことに成功したようだ!!
舞台でクラスメイトが集まり始めているのを横目で見つつ、私たちは控え室に向かった。




