26,文化祭4
文化祭のイベントは盛りだくさん!
迷子を見つけたティファニーちゃんは、迷子を迷子のお兄さんであるワンコ先輩ことクレイグのところへ連れていく。
でも、やんちゃな迷子(名前はアーサーだったはず)はティファニーちゃんがちょっと目を離したすきに、近くのお化け屋敷に逃げ込んだのだ。
ティファニーちゃんはそこで商人の息子ハーリィと出会い、一緒に探すことに。
朗読会があるので、時間制限のあるなか無事にアーサー君を探し出せればミッションクリア。
クリア報酬は、ビクター様ご要望のカルメ焼。
クレイグ、ハーリィ、ビクター様の好感度があげられる中々重要なポイントだ。
「では、お兄様。参りましょう」
このイベントでさりげなくティファニーちゃんに接触して、あの詩のカードを渡す!
ゲーム外の余計なミッションに緊張する私の頭をお兄様は優しく撫でた。
「まだまだ子供だなぁ。お化け屋敷が怖いのか?」
何か激しく勘違いされたけど、まぁいいか。特に言い訳も思い付かないし、今はそれどころじゃない。
「…怖くありませんわ」
「あぁ。怖がる必要はないよ。お前には俺がついているからな。それを忘れないでくれ」
「!」
ここで余計な腹筋を使わせないで!!
◈◈◈◈◈
「随分と規模のでかいお化け屋敷だなぁ」
「ほんと、すごいね。ビクター様のクラスとマックスたちのクラスの合同だって」
「何で二年生と合同なんだ?」
「やりたいことが被ったから、それなら一緒にやろうってなったらしいよ」
ティファニーは受付を済ませ、ハーリィとお化け屋敷の中に入った。
「それで、私たちが探しているアーサー君は金色の髪に緑の瞳で…」
「一人でほっつき歩いてる子供を捕まえればいいんだろ?」
「そうだけど、怖がらせたらだめだよ!」
「お化け屋敷に逃げ込むような子供だ。ちょっとくらい怖がらせたらほうが、いいんじゃないか?」
「もう!」
そう言いながらも、せっかくの文化祭に迷子探しを手伝ってくれるのだから、本当は優しい人なのだ。
ティファニーはハーリィの前に立った。
「中にいるお化け役の人に説明しながら行くと時間がかかるから、ここはふた手に別れて探したほうが良いよね」
「…それだったら、出口で待ってたほうがよかったんじゃないか?」
「あ」
薄暗いお化け屋敷の中、冷たい風が吹いてティファニーの髪を揺らした。
「…追いかけることばかり考えてました…」
素直にティファニーは謝った。
ハーリィの言う通りだった。
ティファニーの告白を受け、ハーリィは頭を押さえた。
「何か策があるのかと思ってた…」
「何もないよ。…ごめんなさい。今から出て、出口に先回り…」
ティファニーは、もと来た道を引き換えそうと歩きだし、
「きゃあ!」
何かにつまずいた。
薄暗いため見えにくいが、椅子のようなものがあったようだ。ハーリィがティファニーの手首を掴む。
「! 大丈夫か?」
「あ、ありがとう…」
薄暗い中、ハーリィの瞳がほのかに光って見える。一瞬そちらに意識がいきそうになり、首を振った。
「ごめんなさい。もう大丈夫」
慎重につまずいたものを避けて、体勢を整える。
ハーリィはその様子を確認して、手を離した。
「…危なっかしいなぁ」
「もう平気。気を付けるから」
それよりも、アーサーのことが気になる。暗い中、怖がっていないだろうか?
「早く、入り口に戻って…」
「いや、進もう」
「えっ?」
「迷路仕立てのお化け屋敷なんだろ。うっかり迷って、入り口に戻る可能性もある。すれ違うと面倒だから、中の生徒や客に聞いて追いかけよう。少し時間が経っちまった今、そっちのほうが手っ取り早いと思う」
そう言うと、ハーリィは手を出した。
「ほら」
「?」
「また転ぶからな。俺が支えてやる」
「…転ぶ前提?」
「ほら、早く行こう。そのガキがどっかに行くぞ」
そう言われると、何も言い返せない。
ティファニーはハーリィの手の上に自分の手を重ねた。
◈◈◈◈◈
「今のは叫び声か…?」
「きっと、お化けに驚いたんですわ」
今の声はティファニーちゃんに似ていた。
時間的にも、もう迷子探しは始まっているはず。
おそらく今のは、ティファニーちゃんが何かにつまずいた声だろう。
…と言うことは、私はティファニーちゃんよりも先にお化け屋敷にはいってしまったようだ。
多分、アーサー君よりは後。
「それにしても、良くできている。今の冷たい風は、魔道具か?」
「えぇ。水と風を封じた魔道具を作って、一定の時間毎に吹き出すように作ったとビクター様がおっしゃってました」
一応、魔法学校の文化祭。
日々の魔力の使い方や研究の発表の場でもあるのだ。
「本当は、人が通った時に反応出来るように作りたかったのだそうですけど、間に合わなかったと」
それは、この間のデートでビクター様に教えてもらったこと。
デートと言っても、お昼ごはんを一緒に食べただけだけど。
「そうか。二つの属性を同時に稼働させるのは難しい。それを一定の時間稼働させているのだから、大したものだ」
ただのお化け屋敷なのに、なんか大がかりな話になった。
ゲームで遊んでいる時は、設定だから、と気にせずにボタンを押していた「魔法」も、こちらでは原理の研究や道具への応用など一つの学問。
とは言え、以前のソフィアはお勉強の類いはさっぱり興味はなかった。
魔法はそれなりに使えるけど、仕組みは分からない。
…例えるなら…
水泳を習ったから泳げはするけれど、推進力とかどこの筋力を使っているかは、きちんと説明出来ない感じ。
つまりは、今、お兄様がどこに驚いているのかはさっぱり分からないのだ!
私の笑顔の意味に気付いたらしいお兄様は、優しい笑みを浮かべた。
「とにかく、お前の婚約者はすごい男だ」
私の婚約者。
それはもちろんビクター様のこと。
時折この兄は、ビクター様のことを殿下や王子と呼ばずにそう表現することがあった。
「ありがとうございます」
多分、独占欲の強い以前のソフィアなら喜んだ表現だった。
今は、ただ、婚約者としての自覚を持てと言われている気がするだけで。
暗がりの中、お兄様が持ったランタンのオレンジ色の光が足元を照らす。
「朗読会ではどんな詩を読むつもりなんだ?」
「はい?」
「俺は聞けないから、先に教えてくれないか?」
…うーん。どうしよう。
あの詩はティファニーちゃんに読んでもらうつもりなので、私は他の詩を読む。
お兄様には、せっかくなので私の一番好きな詩を聞いてほしいな…。
そんな思いがあって、ちょっと迷う。
いや、この場にはティファニーちゃんがいるのだから、危険はおかせない。
やっぱり無難な詩のほうがいいか。
そう結論付けたとき、パッと向こうから明かりに照らされた。




