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悪役令嬢ですが、シナリオを順守することに決めました  作者: 飴屋


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26/26

25,文化祭3

「ソフィア。久しぶりだな」


サラッサラの銀髪に、私よりもさらに深い青色の瞳。整った顔に高い身長。歩くと人が道を譲ってくれるのでとても歩きやすいけれど、その分注目はあびてしまう。


「えぇ。お兄様。お元気そうで何よりです」


私、ソフィアの八つ上の兄。

公爵家の跡取りでもある、ダスティンだ。

いずれは公爵家を継ぐと決まっているけれど、今は騎士団に所属している。


因みにゲームには、全く出てこない。

でも、確かにソフィアのプロフィールには兄が一人とは書いてあった。

ソフィアは綺麗系な美貌で、その兄もまた納得のお顔だ。周囲の視線が痛い。


「詩の朗読会は何時からだ?」

「一時半からですわ」


今は十一時半。

あと、二時間以内にティファニーちゃんに会わなければいけない…。


「そうか。…悪いな。詩の朗読会は見れそうにない」


兄は忙しい。

お仕事が忙しいんだから仕方無い、って言ってあげたいところだけど、私は悪役令嬢。


「まぁ! お兄様。わたくしのことが嫌いになったのですか?」


ここは駄々を捏ねる。

ぷくっと軽く頬を膨らませて、明後日を向く。

…若干、あざとい演技が苦しい。

しかし、兄には効果てきめんだったようだ。

困ったように笑ってくれた。


「すまないな。何をすれば機嫌を直してくれる?」


…違う物語が出来そうなくらいの優しさですが!


でも、そうなのだ。

ソフィアの家族はみんな、ソフィアに甘い。

いずれは王家に嫁ぐことが決まっているからか、大事に大事に育てられたのだ。

それで、悪役令嬢になってしまったのだけれど…。


「では…」


ちょっと考えるふりをして、おねだりをする。


「お兄様と一緒にお化け屋敷を見たいですわ」


まさか、断りませんよね?


そんな顔を作る。


「お化け屋敷?」

「えぇ。すぐ近くの講堂でやっているそうなんですの!」

「…お化け屋敷。お前が?」


意外そうな顔だ。

まぁ、確かにソフィアはお化け屋敷なんて興味はない。

でも、ちゃんと理由は考えてある。


「ビクター様のクラスの催しなんですの。わたくしが実際に行って後でビクター様にお話して差し上げたくて」


ビクター様は、今日はほとんどの時間を生徒会長として過ごさなければならないそうだ。昨日、正式にそう言われ、朗読会にも行けないと謝られた。

自由時間もないそうなのでと、私がビクター様のクラスの出し物に行ってみる。これなら、周りも納得してくれるし、私は自由に動けるし、さらにはビクター様との話題にも困らないので良いことづくしなのだ。

しかし、満面の笑みの私とは反対に兄は顔を曇らせた。


「ビクター様とは一緒にまわらないのか?」


まわりませんとも!

ビクター様との関係が上手く行っていないのは私としては良い状態だけれど、兄から見れば心配だろう。


「えぇ。生徒会のお仕事がお忙しいそうで。今日は会えないと…」

「かわいそうに…」


王家に仕える身である兄は、ビクター様の批判は出来ない。だからこそ、ここは妹を哀れんで次のゲームのイベントが起きる場所へ一緒に来て…


「生徒会室の場所は変わってないな?」


あれ?

なぜか、険しい顔をしたお兄様が立ち上がった。


「お兄様?」

「今から行って、ビクター様を連れてこよう」

「えぇ?! 待ってください!」

「あぁ。お前はここで待っていてくれ。…俺が生徒会長だった頃も忙しくはあったが、一刻ほどは私的な時間を取れていた。…あまり考えたくはないが、今年の生徒会の役員か、文化祭の構造に何か問題が起きていると考えられる」


そんなのゲームのシナリオにはなかった!

慌てて私は、お兄様の上着の袖を掴んだ。


「ダスティンお兄様!」

「ソフィア?」


多分今頃は、お仕事中だ。

邪魔したくはないし、これ以上の物語改変禁止!


「えぇと。…わたくし、お兄様と一緒にいたいですわ」


忙しくて滅多に会えないのは、お兄様も同じなのだ。

さらにいえば学校がある分、ビクター様の方が会えている。


「ソフィア…」


お兄様はじっと私の顔を見た。

…すごく整った顔で見られ、ちょっと照れそうになるけど、そこは腹筋に力を入れて耐える。


「お前は、なんて優しい子なんだ…」


いいえ。自分のために動いているだけです。

そんなことを言えるわけもなく、私は笑ってごまかした。


「…そうだな。こうしてお前と一緒にいられるのも、お前が学生のうちだけだったな」


…。

現時点で、ソフィアは王子の婚約者。

貴族に義務の魔法学校を卒業すれば、城にはいることが決まっている。

そんな未来が来ないことは、私とエリックしか知らないことで。


知っているのに、教えられない苦しさをごまかすために、私は笑った。


「お兄様?」

「あぁ。分かった。俺を選んでくれて嬉しいよ」

「…!」


頑張って、ソフィアの顔を保つ。


「では、決まりですわ! 早く参りましょう!」


私は、顔が真っ赤になったのを誤魔化すために、兄の袖を掴んだまま歩きだした。


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