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悪役令嬢ですが、シナリオを順守することに決めました  作者: 飴屋


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24,文化祭2

◈◈◈◈◈


「僕は迷子じゃない!」


と、ティファニーが見つけた子供は第一声で言った。


「ちょっと、時計塔を観に来ただけだ。マーガレットは後で来る!」

「そのマーガレットさんは今どこに?」


ティファニーがしゃがんでその子と目線を合わせると、その子はさらに機嫌を悪くしたようだ。


「知らないよ。兄さまのところじゃない?」

「マーガレットさんとは、ここで待ち合わせてるんじゃないの?」

「別に。ただ気が向いたから来ただけ」


やっぱり迷子だ。

今頃マーガレットさんは真っ青になって、この子を探しているに違いない。

ティファニーは近くに生徒会役員がいないか探したが、あいにくそばにはいないようだった。


「お兄様は、ここの生徒なの?」

「そうだよ!」


「お兄様」のところに連れていくのがいいかな。ティファニーはそう判断した。


「お兄様のお名前は?」

「見ず知らずの奴には教えない」


ぷいっとそっぽを向かれ、ティファニーは途方に暮れた。

ここで、マーガレットさんが来るのを待つと言う手もあるが、広大な敷地のこの学校で、果たしてここにたどり着くまでにどれ程の時間がかかるか。


「ねぇ、この中は入れないの?」


悩んでいると時計塔の入り口の扉に手を掛け、少年が訊いた。


「え? うん。入れないと思う」

「なんだ。つまらないの」


そう言いながらも諦めきれないのか、扉の取っ手部分をガチャガチャ回す。

ティファニーが少年の肩に手を置いて、生徒会役員がいそうなところに行こうと誘おうとしたとき、持っていたクッキーが落ちそうになった。


「あっ」


ティファニーは慌てて掴みなおす。

その際に、扉に軽くぶつかった。


「!」


コツンと音がしたが、クッキーは割れていない。慎重に確めて、胸を撫で下ろす。


良かった。クマさんは無事だ。


「あ、開いた!」

「えっ?」


クッキーに気を取られている間にも、少年は扉を引っ張っていたらしい。突然、音もなく簡単に扉は開き、少年はためらいなく入って行ってしまった。


「待って!」


ティファニーは、再び慌てた。

立ち入り禁止の札こそないが、普通に考えて入ってはいけない場所だろう。

この時計塔は古くからあるときくし、小さな子供には危険なはず。


ティファニーは少年を追いかけ、時計塔の中へと入っていった。


「待って!」


時計塔の中は、意外と明るかった。

明かり取りの小さな窓がいくつもあるので苦もなく歩ける。塔の中の螺旋階段は、どうやら地下まで続いているようだ。


軽い足取りで、少年が階段を駆け上がっていってしまう。


「危ないから、待って!」


ティファニーのその忠告は、少年には聞こえていないようだ。


「もう!」


お使いのりんご飴やクッキーを落とさないように大事に抱えながらも、ティファニーも螺旋階段を上っていった。


「わぁ!」


少年のそんな声が聞こえた。

ティファニーは階段を上る速度をあげる。

少しして、やっと少年に追い付いた。


「!」


そこは、時計塔にある時計の裏側。

大小様々な大きさの歯車が、ゆっくりと動いている。そこから連動して、鉄の棒や砂袋のようなものが複雑に動いていて、圧巻の光景だった。


「すごい…」


思わず漏れた言葉に、少年が嬉しそうに答えた。


「ほんと! すごいよね!」


少年が歯車の一つを指差す。


「見てよ、これ!」


そこには大きな歯車の中心に、青い宝石のようなものがはめられていた。


「これが動力の魔法石だよ。こんなに大きくて透明度が高いのは初めて見た!」


確かにとても綺麗な石だ。


「魔法石…。授業では習ったけど、初めて見た」

「それはそうだよ。高級品だもん。しかも、こんな大きなのなんて、滅多にないよ!」


キラキラと目を輝かせて少年は言った。


「詳しいね」

「まぁね。…すごいなぁ」


きらきらした目で観察してはいるが、少年は、決して歯車や魔法石を触ろうとはしなかった。

紙を持ってくれば良かった。

そう残念そうに呟いていたので、ほんの少しだけ、ティファニーは少年を待った。


「ねぇ、そろそろ行こうか。お兄様が待ってるよ」

「えー。まだ、鐘を見てないよ!」

「鐘…?」

「この上にある鐘だよ! どうやってのぼるんだろ」


少年はティファニーの横をすると抜けると、壁に立て掛けてあった梯子を登った。


「待って、危ない!」


固定されていない梯子だ。

安定しておらず、見ていて危なっかしい。

急いでティファニーは少年を捕まえた。


「離してよ!」

「これ以上はだめだよ?」

「何でだよ!」

「危ないから。どうしても見たかったら、この後で、先輩に頼んでみて」

「先輩?」

「そう。クレイグ先輩。あなたのお兄様は、クレイグ先輩でしょう?」


そう言うと、少年は目を丸くした。


◈◈◈◈◈


「あ、出て来た!」


私は物陰にかくれながら、時計塔の前で二人が出てくるのを待っていた。


うん。

ティファニーちゃんと少年は、しっかりと手を繋いでる。

良かったぁ。

ちゃんと問題をクリア出来たようだ。


ここも一つの分岐点だった。


ゲームでは、一つの問題を出される。


『この少年は誰?』


A.ビクター様の弟

B.クレイグ先輩の弟

C.クレアの従兄弟

D.マナックの子供


…。

髪の色からビクター様の弟と選びたいところだけど、正解はワンコ先輩…いや、クレイグ先輩の弟なのだ。

多分、少年が熱く語った魔法石への愛や目のキラキラ度がヒントだったんだと思う。


ここで正解を出さないと、ティファニーちゃんは少年に振り回されて、さんざんな文化祭をおくるはめになる。


何周もプレイして余裕のある人は、あえて「D」 を選んで何が起こるのかわくわくした人もいた。もちろん、私もだ。


真面目に少年の面倒を見ているティファニーちゃんは、きちんと正解を引き当てた。

この後は、クレイグ先輩のところへ少年を連れて行き、ついでにカルメ焼を買う。


「よし。とりあえず、順調だ」


正規のシナリオ通りにイベントは進んでいる。…詩の朗読会以外は。



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