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悪役令嬢ですが、シナリオを順守することに決めました  作者: 飴屋


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24/26

23,文化祭1

あっという間に文化祭当日になった。


あれからクラスでの練習は何度かしたものの、私はすべて欠席した。

クレアにさりげなく聞くと、ティファニーちゃんは授業で習ったことのある、誰でも知っている詩を朗読していたようだ。


詩の朗読会は午後に始まる。


それまでになんとか、ティファニーちゃんに接触しなければ。


でも、この文化祭のイベント。

盛りだくさんなんだよね…。


まずは、買い出しを頼まれる。

そしてその途中に迷子が現れる。

お化け屋敷にも強制参加させられ、最後に朗読会でも騒動が…。

それらすべてを、ティファニーちゃんがさばいていくのだから、ヒロインって大変だ。


とりあえず、大体の時間軸と騒動が起こる場所を知っているので、私は最初の関門である迷子が現れる場所へと向かった。


どこか隙を見て、ティファニーちゃんにあの詩をそれとなく伝えるのが、今日の私の最大の目標だ!



◈◈◈◈◈


「すごい人…」


ティファニーは文化祭で賑わう校舎の中を一人、荷物がぎっしりと入った段ボールを持ちながらすすんだ。


ティファニー自身のクラスの出し物は午後。だから、やることはない。その為それまでの間、生徒会の仕事を手伝うことにしたのだ。


「アンブローズ?」


頼まれた資料を生徒会室に持って行くと、そこには生徒会長がいた。

折角のお祭りなのに、執務室で何かの資料を読んでいるようだ。外から聞こえる、明るく賑やかな声との差が激しい。


「なぜ、君がここに?」


赤い目が訝しげに細められる。


「はい、あの。副会長に職員室から資料を持ってきてほしいと頼まれまして…」


生徒会員でもないのに、出入りをしてはいけなかったかな。

ティファニーはすこし萎縮しながら答えた。


「…副会長には、後で注意しておこう」

「! 私が勝手に手伝ったんです!」


叱るなら私を!


そう言うと、ビクターは小さく首を振った。


「君は文化祭は初めてだろう? きちんと楽しむように」

「きちんとたのしむ…?」


楽しむのにも何か決まりごとがあるのだろうか?


「折角の祭りなのだから、一年生の君は楽しむべきだ」

「…生徒会のお手伝いも楽しいです」


クラスメイトにも、仲の良い友人は出来た。でも彼女は今日、文化祭にやってきた両親と弟を案内しているのだ。

だから、ティファニーは一人。やることもない。


なんとなく反抗的な返事になってしまったけれど、嘘偽りはない。

ティファニーはじっとビクターの目を見て答えた。


それを見て、ビクターは眉間にシワを寄せたが、あきらめたのか一つため息をついた。


「…では、遣いを頼んだもいいだろうか」

「はい!」


なんとなく勝てた気がした。

それがすこしだけ嬉しくて、ティファニーは弾むように答えてしまった。そんな思いに気付いたのか、ビクターの顔は複雑そうな表情だったが、見逃してくれるようだ。


「…。まぁ、いい。では、一階にあるりんご飴。二階のわたあめ。体育館の焼きそばと、屋上のクレープ」

「…」

「あぁ。あとは場所は忘れたが、ボランティアでクマ型のクッキーを売っているらしいからそれも。全部二つないしは、三人分買って来てほしい」


それって。

ティファニーがなんと聞こうか迷っていると、ビクターは真面目な顔をして一度頷いた。


「生徒会役員への差し入れとして、だ。今日の後夜祭までに頼んだ。もう一度、言おうか?」

「…お願いします」


お使いに託つけて遊んでこいと言われている気がしたが、一応は生徒会長の頼みごとだ。手近にあった紙を用意する。


「りんご飴、わたあめ、焼きそば。クマのクッキーに理科部のカルメ焼」

「…ビクター様」


メモする手を止める。


「もう一度?」

「いいえ!」


絶対わざとだ!

ティファニーは、メモを折りたたんでポケットに入れた。


「すぐに買ってきます!」

「あぁ。重要な役目だ。頼んだ」


ビクターは文化祭用の食券を渡すと、ティファニーを生徒会室から追い出した。


こうなったら、急いで頼まれた品を持ってこよう!


廊下に出たティファニーは、早足で校内を歩いた。

出来立てが美味しい焼きそばやクレープは後回しにして、まずはクッキーから。


そう考え、文化祭のパンフレットを開く。


「孤児院の子供達手作りくまさんクッキー。これかな。場所は…」


分かりやすい手書きの地図を見る。

場所は、時計塔の近くのようだ。


別に勝負でもなんでもないのに、なぜだか負けないぞと言う気持ちになってくる。


途中、りんご飴のお店を見つけたので、自分の分を含め三つ購入した。


「あった」


時計塔の横に、白い幕を張ったテントがあった。

ここの辺りは、外部の人たちのお店のようだ。


「くまさんクッキーを二つお願いします」

「はい。ありがとうございます」


店員の女性が、青い紐で結んだ袋を渡してくれる。

それを大事に受け取って、歩き出したときだった。


「?」


時計塔の下に一人の男の子がいた。

仕立の良い服に少し不安げな表情。

柔らかな金色の髪はなんだか、見覚えのあるような…。とティファニーは首をかしげた。


生徒の家族…だよね。


文化祭と言っても、学生の保護者や親族、あるいは、学校が許可した業者や関係者、来賓しか来ることは出来ない。

安全面から、一般の人間がふらっと立ち寄ることは出来ないのだ。


周囲に彼の保護者らしき人はいない。


「あの…」


思いきってティファニーは声をかけた。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈



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