22,緊急対策本部
「当日欠席…」
「ソフィアがいなかったところで、ティファニー・アンブローズがその詩を朗読するわけじゃないだろう」
エリックが言った。
…全くその通りだ。
「うぅー。じゃあ、ビクター様とクレアの記憶を消す方法を探す…?」
ここはいつもの旧校舎にして、臨時緊急対策本部。
議題は、私がやらかしたイベント改悪をどう軌道修正するか、だ。
「記憶を…、物理的にか?」
「魔法で!」
エリックの呆れたような視線が痛い。
「…魔法でそんなことは出来ないって分かってるよ…」
魔法で、記憶の操作なんて出来ない。
「私が気が変わったって言って、他の詩にしても、もうティファニーちゃんにあの詩を伝える術は断たれちゃった」
ビクター様が伝えなければ意味がないのだ。
「それに、もし今の状況でティファニーちゃんがあの詩を朗読したら、今度はクレアが怒る気がする…」
八方塞がりだ。
あぁ、なんであの時うっかり歌ってしまったんだろう…!
私はテーブルに突っ伏した。
「…別に、そこまでその詩にこだわる必要はないんじゃないか?」
俺は詩の教養なんて全くないけど。
エリックが不思議そうに言った。
「要は、王子とアンブローズが仲良くなればいいんだろ。その邪魔をしたわけじゃない。詩なんて他にもあるんだから、その二人に任せればいいと思うが?」
…。
「…その詩は、ティファニーちゃんが読むために作られた詩なの。だから…」
わがまま公爵令嬢では、説得力がない。
「私が聴きたかったの…。あの透き通る綺麗な声で、朗々と読み上げる! 私が大好きなシーン! それに、色々あって…。あの詩を朗読することで他のクラスメイトのティファニーちゃんを見る目が変わって、少しずつ仲良くなって、ティファニーちゃんも自信がついてくるっていう大事な分岐点だった!」
それを、まさか自分でぶち壊すとは…。
「あぁー。私のばか…」
「そこまでのことかな?」
「そこまでのこと!」
悪役令嬢は関与しないからって、油断してはいけなかったのに…。
「…まぁ、でも、もう変えられないんだから。他を頑張ればいいだろう」
「…他?」
「王子とアンブローズの仲を取り持つとか、その詩よりもいい詩を探して、アンブローズにそれとなく伝えるとか…?」
あの詩よりもティファニーちゃんに相応しい詩…。
「ないよ…」
だから、こうやって悩んでいるのだ。
特別、素晴らしく良い詩と言う訳じゃない。
ちょっとありがちな短い詩。
でも、あの場ではティファニーちゃんが読むべき詩なのだ。
「こうなったら、詩の朗読会自体をやめにして、合唱するとか、劇をやるとか…」
「落ち着け。もう文化祭まで日はないぞ」
「そうだよね…」
テーブルの上には、一枚の美しいカードがある。
朗読会のため、学級委員長が手配したものだ。
私のこのカードには、ティファニーちゃんが読むはずだった詩が印字されている。
「どうにかして、このカードをティファニーちゃんに渡さなくちゃ…」
ビクター様経由は諦めるにしても、せめてティファニーちゃんにこの詩を朗読してもらわなければならない。
なにがなんでも。




