2,覚悟
「はぁ…」
広い衣装部屋の中央に用意された制服を見る。
大きなリボンのついた可愛らしい制服は特注品だ。
明日から通う魔法学校の制服と同じデザインだけど、みんなと同じものは嫌だとソフィアが言って、デザインは同じで素材は高級なものに変えたのだ。
さらにこの制服に似合うブローチも作らせ、今は机の上に置いてある。
「ってことは、やっぱりここはあのゲームの世界…」
『七色の虹』
私がはまった乙女ゲームで、ひょんなことから魔力を持っていると発覚した普通の女の子が、貴族の魔法学校に入学してそこで起きるイベントをこなし、攻略対象の好感度を上げていく…。そんなゲームだ。
「ゲームと同じ名前。同じ顔。同じデザインの制服…」
銀色の長い髪を軽く撫でる。鏡の中の私は、悪役令嬢ソフィアと同じ顔。どうやらここは、本当にあのゲームの「中」らしい。
「大好きだったけど、何でこんなことに…」
綺麗なイラストと音楽が好きで、私はこのゲームで何度も遊んだ。
攻略対象者は虹色と同じ七人。
「初心者向けで割りと簡単だったなぁ」
多分王子や一部の攻略者は簡単に攻略出きるよう設定されてあったのだろう。
だから、失敗したのは一度だけで…。
「ん? 失敗…」
選択を間違えれば途中で終わってしまい、最初からやり直しだけど、最終話で間違えた場合は…。
「…国が…」
『魔王が完全復活、そして王国は滅びた』
そんな一文と崩れた城の絵があったような…。
「!!!」
そうだ。
攻略対象者の好感度を上げて、途中のアイテムを獲得しないと、最終話の魔王との対決には勝てない。
勝ってやっとエンドロールが見れるのだ。
勝てなかったら国が滅びる。
「ど、どうしよう…」
魔王。
それは言わずとしれた隠しキャラ。
一巡目では攻略出来ないお方。
そして、この国の住人目線で言えば、神話に出てくる悪役。
暴れん坊だった魔王を特別な力を持った女性パトリシアと彼女の騎士が倒した。
彼女の功績を称え、パトリシアは救国の乙女と呼ばれ、彼女の守護するこの土地には平和が訪れた。
そんなお話だ。
もちろんみんな信じていない。
ただの物語にしか思っていない。
けど。
実は本当に魔王は存在していて、そして今は眠っているだけなのだ。
膨大な魔力を持った魔王を倒すことが出来ず、パトリシアは魔王を眠らせた。
やがてその事実を忘れた人々は、その地に学校を作ってしまったのだ。
もちろん、明日から通うあの魔法学校だ。
たくさんの子供たちの魔力の気配のせいで、魔王は長い眠りから目覚めてしまう。
魔王復活にいち早く気づいたヒロインは、魔王と戦うことにー…。
ざっくりとはそんなストーリーだった。
そして、攻略対象者の好感度が高ければ、魔王との決戦の舞台で、彼らの力も借りられる。
逆に低ければ負けてしまうのだ。
そのさきにあるのは、国家滅亡…。
「いや、そんなまだ子供なのに、そんな重荷な…」
ゲームで遊んでいたときには気にしなかったけど、国民としての立場だと、なかなか複雑だ。だって、国の命運を高校生だけが担ってしまうって。
「あれ、これ。途中でだめだった場合は…」
ゲームではやり直しがあったけど、ここは…。
その場合、ヒロインが戦うことも出来ずに魔王が復活…?
「…うそでしょう…」
多分魔王と渡り合える力を持つのは、このゲームで特別な力を目覚めさせるヒロインだけだ。
この国だって優秀な騎士や魔術師がいるけど、ゲームの強制力と言う言葉があるくらいだから、あまり当てにはしてはいけないだろう。
「つまり、ヒロインが育たなければ…」
ゲームの物語をなぞって仲間を増やし、攻略対象者たちの好感度を上げる。
それがこの国の平和に繋がる。
それなら簡単だ。
なぜなら、私はこのゲームの愛好者。
どのルートも何度も遊んだ。
隠しキャラもおまけ特典もほとんど知っている。
どんなイベントが起きて、どう対応すればいいかも全部言える。
ゲームの通りに出来る。
ただ。
「出来るよぉ。うん。出来る…」
私は悪役令嬢、ソフィア。
魔法学校で特別入学の庶民の娘を見下し、ありとあらゆる犯罪とも言える嫌がらせをする。
大好きなゲームの大好きなヒロインに、嫌みとか嫌がらせを嬉々としてやることだって、出来る…はずだ。
「目指そう。破滅ルートを!」




