18,お昼休み
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「文化祭かぁ」
ティファニーは学校の裏庭のベンチで一人、お弁当を広げた。
詩の朗読会。
いかにも貴族の世界と言う感じがして、気後れしてしまう。
取り敢えず、先程の時間に詩の本を数冊目を通してみたが、ティファニーには詩の良さがわからなかった。
「…あれ、どうしたの? おいで。おいで」
お弁当を広げたものの食べる気が起きず、ぼんやりしていると、少し離れたところに黒猫が一匹やって来たのに気付いた。
この紫色の瞳が綺麗な黒猫は人懐っこく、よくティファニーのところにやって来る。
悲しくて眠れない夜に窓辺にいたので、思わず呼び寄せたら、すんなり部屋に入ってきてくれて一緒に寝たこともある。
手入れの行き届いた毛並みはサラサラで、頬にその感触を感じながら眠ると、驚くほどぐっすり眠れたのだ。
「あ、だめ。待って」
膝に飛び乗った黒猫は、ティファニーのお弁当に興味があるのか、顔を近付けた。慌ててお弁当を遠ざける。
猫って何を食べるんだろう?
確か、ネギ類はだめだった気がする。
いつもは、用務員さんにもらった猫用おやつをあげていたので、猫の食生活は良くわからない。
後で、猫についての本も借りてみよう。
そう思うものの、すぐに、今日は図書室に行ってはいけないことを思い出して落ち込んだ。
今日は、「あの方」がいるから、だめだよね…。
詩についての本も今日は探せない。
他のクラスメイトのように、詩の教養がない自分はみんなの数倍努力しなければならないのにと、焦る気持ちが強くなる。
「詩か。君は何か綺麗な詩を知ってそうだね」
膝の上の黒猫は、いつも理知的な目でティファニーを見る。
頭を撫でてあげると、嬉しそうに目を細めた。
「…川のほとり 橋の下 ひっそりと咲く野の花よ 群れから離れても 気高き美しさは失われない あなたがそこにいるのなら この川は 限りなく清らかなのだろう」
穏やかな美しい声がした。
黒猫に話しかけたから、答えてくれたのかと一瞬思ったけど、 まさか。
声がしたのは、ティファニーの背後からだ。おそるおそる振り返ると、少し離れたところにいたのは、
「ビクター様」
学校の生徒会長にして、この国の王子様だった。
「…今、思い出せるとしたら、この詩だろうか」
「えっ?」
何故、突然詩の話?
ティファニーは首をかしげた。
「もう隣に行っても良いだろうか」
「はい、もちろんですが…?」
会話をするには、少し離れすぎている。
近付くのに許可がいるのだろうか。これも何か自分の知らない規則があるのか、混乱するティファニーに気付いたのか、ビクターは言った。
「ここで待つように、と言っただろう?」
「えっ? 私がですか?」
「あぁ。君が、だめだと」
「…?」
ビクターにそんなことを言った記憶はない。今、ビクターの存在に気がついたのだから、そんなことを言えるはずもないし、そもそも、王子様に待つように言えるわけがない。
どういうことか、とティファニーは記憶を辿る。そのとき、膝の上の猫が、にゃあと鳴いた。
「あ!」
言った。
だめ。待って、と。
ほんの少し前に声に出したことを思い出した。
でも…。
そのときのことを思い出して、ティファニーは顔が真っ赤になった。
「…言いました。でも、それはこの子に話しかけただけで、ビクター様に言ったのではありません…」
「この子…?」
目の前にやってきたビクターは、ティファニーの膝の上に座る猫を見たようだ。
「猫、のことか…?」
「はい」
猫に話しかけているところを見られた!
突然詩を読んだのも、猫に話しかけた言葉を受けてのものだったのだろう。
は、恥ずかしいっ!
「ねこ…」
「忘れて下さい…」
自室ならいざ知らず、学校の裏庭で少し本気の相談事を猫にしているところを聞かれるのは、とても恥ずかしい。
「…詩の授業でも、あるのか?」
流石は、王子様。
すぐに状況を理解して、忘れてくれるようだ。その上で、話しの矛先もずらしてくれた。
「い、いえ。文化祭の出し物で、詩の朗読会をすることになって…」
ティファニーは何度か深呼吸をして答えた。
「成る程。詩は魔法の鍛練にもなるから、文化祭の出し物として相応しい」
「そうなんですか?」
「あぁ。魔法を使いこなすにはは想像力が不可欠だ。優れた詩はそれを補ってくれる」
「…そうだったんですね」
そうなると、なおさら詩の選び方が重要になってくる。
文化祭に相応しくない詩では、クラスメイトに迷惑をかけてしまう。
撫でる手がとまったからか、黒猫はティファニーの膝から降りてどこかへ行ってしまった。残念な気持ちで膝を見つめる。
「…君が良ければ、いくつか参考になりそうな本を教えよう」
「ビクター様が…?」
「あぁ。いつも生徒会では助けてもらっているから、その礼代わりに」
明後日に、この場所で会おう。そう言って、微笑んだ。
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黒猫;好きなものはササミ
[公式ファンブックより]




