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悪役令嬢ですが、シナリオを順守することに決めました  作者: 飴屋


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17,念願の場所

私は念願の場所に来ている。

クラスメイトがいるので、顔には出せないけど、心の中はワクワクだ。


「ソフィア様?」

「…なんでもないわ」


顔に出てしまっていたらしい。

急いで、扇で顔を隠す。


ここは図書館。

悪役令嬢には縁遠い場所だから、なかなか来れなかったけど、今回はちゃんと大義名分がある!


『多数決の結果、文化祭の出し物は、詩の朗読会に決まりました』


とは、数十分前の学級委員長の言葉。

各々三分を限度に、好きな詩(自作も可)を朗読する会、が文化祭の出し物。


ゲームプレイヤー目線では、素敵な声の声優さんの詩の朗読が聴ける!

と評判はなかなか良かった。


でも、ヒロインがお姫様に抜擢されてお芝居をするか、飲食店が文化祭の定番では?


との意見もちらほら。


そのときは気が付かなかったけど、ヒロインのクラスメイトには、悪役公爵令嬢がいるのだった…。


お芝居の場合、身分が高い彼女を差し置いて配役は出来ないし、しかし、彼女は気分屋さん。当日、やらないと言い出したら大変なことになる。かといって、裏方をやらせるにも不安が残る。


練習? 居残りで作業? まさか!な、御方。


飲食店は、給仕はもってのほか。多分、作るのも無理。


となると、ちゃんとスポットライトが当たる素敵な役割はありますよ、でも、当日来なくてもなんとかなります。な、ものでないといけなくて。


…現実的な視点から、詩の朗読会はこのクラスの裏事情にぴったりなのだった。


魔法を使うとき、想像力がある方がうまく使いこなせる。だから、詩を諳じるのは貴族の嗜み…そのため詩の授業もあるって設定があるけど!


…絶対、ソフィア対策なのだ。

みんな、本当にごめんなさい…。


「ソフィア様はもうお決めになりまして?」


クレアが訊いた。


「…いいえ。難しいわ」

「ソフィア様は素敵な声でいらっしゃるから、例え、校則を読み上げてもみんな聞き惚れてしまいますわ」

「まぁ! ありがとう、クレア」


これはクレアのお世辞…もあるだろうけど、ソフィアは本当に良い声をしている。


姿形と同じく、声もまたゲームに忠実みたい。

自分の声を自分で聴くからか、記憶の中のソフィアとはちょっと違う風に聞こえるけれど、他のキャラはほぼ同じなので、やっぱり声優さんと同じ声なのだと思う。

エリックは口調が違うから、違って聞こえるかも? 改まった言葉遣いのときは…、大泣きしたあとだったのでよく覚えていない。

ただ、攻略キャラと違って、みんなの味方用務員さんは決めゼリフや口説き文句的なことは言わず、常に平坦な口調だったからなぁ。多分、そこの違いだろう。


「さて、本を探しましょう」


ゲーム内でソフィアの朗読シーンはなかった。これで参加してなかったのなら良かったものの、…参加はしているのだ。

朗読会の席に座る銀髪の生徒がいたのをちゃんと覚えている。


と言うことで、まさかの自由演技、再び!


ソフィアっぽくて、でも、目立たない詩、とは?


長いのは、無理。

でも、短すぎても…。

いっそ、本当に校歌や国歌とか…。


冷淡な表情を保ちつつ、悩む…。


「そうですわ。殿下に相談なさってはいかがですか?」


クレアが名案とばかりに両手を合わせて言った。

殿下とは、この場ではビクター様のことだ。

…確かに、ビクター様は成績優秀。

貴族の嗜みとして、詩もきっとたくさん知ってるに違いない。


でもなぁ。


「ビクター様は、お忙しいから…」


長期休暇前のデートからあまり会っていない。貴族のパーティーでは会うものの、会ったって回数に入れていいのかな、と思うぐらいの顔合わせだ。


そして、何より、ビクター様にはティファニーちゃんが相談するのだ。

庶民出なので、詩の世界はわからない。困ったティファニーちゃんは悩んで悩んで…。

…これ以上は、顔がにやけるから思い出すのは止めておこう。あとで、エリックに訊いてもらう。


兎に角、ここは自力でがんばるしかない。


私は、本棚の上の方にある詩集に手を伸ばした。

私は、悪役公爵令嬢。

どんな詩を朗読したって、みんな褒めるしか選択肢はないのだ!

覚悟なさい!


…そんな気持ちだったから、いけなかったのか。


「ソフィア様!」


引っ張り出そうとした本が手から滑り落ちてた。

上段の本を背伸びして取ろうとしたので、このままだと顔面直撃コース。


「…っ!」


色々対処法はあるだろうに、思わず本を目で追ってしまったがために、避ける時間はなかった。

きつく目を閉じて、衝撃に…。


『それはあなたの歌声。夜に啼く風の音』


落下する本が私の頭上でピタリと止まった。


『揺りかごは揺れ、星は瞬く』


そして、ゆっくりと降りてきて声の主の手元におさまった。


「あっ…」

「ご無事ですか?」


大きな詩集を片手に持ってそう心配そうに言ったのは、胸元に本のピンバッジをつけた司書のマナック・メーテルリンクだった。


「ソフィア様! 大丈夫ですか!」


クレアも真っ青な顔だ。


「えぇ…。少し、驚いただけよ」


当たってないので問題はない。

クレアを宥めると、司書のメーテルリンクに顔を向ける。


「ありがとう。助かりました」


お礼を言うと、メーテルリンクはわずかに驚いたようだ。

…流石に悪役公爵令嬢でも、助けてもらったらお礼は言うんだけどな。以前のソフィアでも、多分言ったはず。


「いいえ。ご無事で何よりです」


微笑む姿に、背後のクラスメイトたちが黄色い声をあげたのが聞こえた。

切れ長の眼。理知的な顔で、無表情だと冷淡にも見えるけど、その分微笑むと破壊的な美しさを醸し出すのだ。

加えて、数少ない「大人」。

周囲にいるクラスメイトと比べると、それだけで、ちょっと希少価値が足されてしまう。


「詩集をお探しとのことですが」


メーテルリンクは私が取り落としそうになった大きな本を私のすぐ横の机に置いた。

いや、怪我しそうになったからって、本に八つ当たりはしないよ?


「えぇ。朗読会のために」


ホームルームの時間にクラスメイト全員でやってきたので、もう知ってはいるはず。


「詩は魔力が宿りやすい。ご自身の属性にあったものを基準に探すのも、一つの方法ですよ」


あ、成る程。

今、メーテルリンクがお手本を見せてくれたようにやるのもありかも。

突然思わぬところからの助言。


「参考にしますわ」


満面の笑みを浮かべそうになって、すんでで堪える。


「えぇ、もしよろしければ、探すのを手伝いますが…」


メーテルリンクが言いかけたとき、鐘が鳴った。

この後は、お昼休みだ。


「…では、放課後に来ますわ」


うん。

ティファニーちゃんが図書室に来てしまわないように、ここのルートは潰しておく必要がありそうだ。

私がいれば、ティファニーちゃんは図書館に来れないだろう。

そして、ビクター様に相談する流れになるはず!

私は図書館に来る口実が出来て、一石二鳥な作戦だ。


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