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悪役令嬢ですが、シナリオを順守することに決めました  作者: 飴屋


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16/26

16,七人目は

「私も見たよ! ティファニーちゃんの覚醒の虹!」


長期休暇が開け、お土産を持参して私は旧校舎に直行した。

いつものようにエリックがお茶の準備をして待っていてくれた。


「わがままを言って、早めに領地から帰って来たその日だったの! きれいだったぁ。本物をこの目で見る日が来るとは…」

「あぁ。俺も見た。やっぱりあの虹がそうだったんだな」


エリックは甘党のようだ。

嬉しそうにお土産のクッキーを食べている。


「うん。そう。ティファニーちゃんがその能力を解放すると虹が架かる、ことが多い」


魔法の授業ではかかっていないから、魔力の強さとかその日の天気とかが関わってくるのかも?


「…室内で使った場合は?」

「…外に架かってたよ。天からの祝福って、ゲームの終盤でビクター様が言ってた気がする」


今のところ、無事にゲームのシナリオ通りに進んでいっている。

アーモンドが載ったクッキーを食べていると、甘い匂いに誘われたのか、足元に猫がやって来た。


「あれ、この子…」


紫色の瞳の黒にゃんこ。

頭を撫でると、擦りよってくれた。


「これで双子は攻略出来たってことか」

「…ううん」

「違うのか?」

「うん…。まだまだ。他の人と同じで、好感度をあげないといけないの」


王子には、こまめな挨拶。ワンコ先輩には餌付け。好感度を上げるためにそれぞれポイントがある。

そして、双子には。


「見分けゲーム」

「なんだそれ」

「マックスが転入して双子が揃うことになるでしょ。それで、ティファニーちゃんに興味を持った二人は、色々ちょっかいを出すの。兄のふりをして弟が話しかけたり、弟のふりして兄が授業を受けてたり」


親も見分けられないと言う二人だ。

もちろん見た目はほぼ一緒。

目の色が青と藍色とされているけれど、光の加減でほとんど同じに見えてしまう。

着ている服のボタンや刺繍が違ったりするのだけど、本当に少ないヒントだった…。


「ティファニーちゃんが当てられれば、好感度は上がるけど、当てられなかったらすっごく下がる…」

「お、おぅ」

下がった好感度を上げ(あやまる)るために、ワンコ先輩にあげるはずだったお菓子をあげたり、図書室に行く時間を割いて一緒に遊んだり…!」


そのときのことを思い出すと、なかなか進まないイライラがよみがえった。

膝にのせた黒にゃんこ様がしっぽをパタパタさせる。


「…コリンズ兄弟推しじゃない人には、ちょっと不評なミニゲームだった…」


にゃんこ様のお陰で取り乱したことに気づいたので、取り敢えず深呼吸する。


「…色々あるんだな」


エリックが紅茶のおかわりを入れてくれた。


「それで、あと一人は誰なんだ?」

「ん?」


話をかえようとしてくれたのか、エリックが聞いた。


「王子。ワンコ先輩。商人。司書。双子。これで、六人だろ。あと一人は誰なんだ?」

「もう揃ってるよ?」


あれ、言ってなかったっけ?

私は首を傾げた。


「好感度を上げるのが重要だから、最初に攻略対象者に出会わないと、でしょ」


コリンズ兄弟がちょっと遅すぎるくらいだ。


「入学式のとき、ビクター様よりも先に会ってる」

「…目の前で転んだとか言う生徒か?」


違うよ。

私は首を振った。


「この子だよ」

「にゃん」


流石はにゃんこ様。

話題にされたのが分かったようで、膝の上のにゃんこ様が一声鳴いた。


「は? 猫が…?」

「そう。寮で一人暮らしを始めなくちゃいけなくなったティファニーちゃんを優しく励ますこのお方こそが、攻略対象者」

「…猫が」

「可愛がれば可愛がるほど、お部屋で一緒に寝てくれたり、お腹みせてくれたり。好感度上げるのが一番楽しかったなぁ」


悪役令嬢に懐いてしまってはいけないから、今はご飯をあげるのは我慢しなくちゃいけないのが悲しいけど。


「猫、ねぇ」

「エリックも撫でる?」


じっと見てきたので、聞いてみる。でも、首を横に振った。


「いいや。猫はいい」

「? そっか」


ファンブックには、猫のおやつを常に持ち歩いてる。って書いてあったのに。

隠れ猫好きなんだろうか。


「でも、このにゃんこ様はただの猫じゃないんだよ」

「?」


喉をかいてあげると、嬉しそうにゴロゴロ鳴らしてくれた。


「ニ巡目で、実は魔王の化身だったことが明かされるの!」

「ゴホッ!」


エリックがむせた。

その音に驚いたのか、にゃんこ様は私の膝から降りて行ってしまった。


「エリック、大丈夫?」

「…いや、今、何て言った?」


何か涙目だ。

ハンカチを渡して、新しい紅茶を入れてあげる。…そんなに粉っぽいクッキーだったかな。


「あのにゃんこ様は魔王様の化身」

「嘘だろ…」


絶望したような顔のエリック。


「うん。一巡目ではみんな、ただのマスコットキャラだと思ってた。でもね、…長い眠りの中、魔王は徐々にその力を取り戻していった…」


頑張って、あのゲームの声優さんっぽいナレーションの重厚感を出す。


「…不完全ながら、結界から溢れた魔王の魔力は、偶然近くにいた動物の形を真似、外の世界へと顕現するー。そこで、記憶を引き継がれなかった魔力の塊は、美しい光に引き寄せられたのだった」


どうだろう?

ちょっと期待してエリックを見ると、…白けた目でこちらを見ていた。


「…そんなに私のお話、下手だった?」

「いや、ソフィアの話し方は悪くない。そのゲームの再現ができてるんだろ。…ただ、内容が…」

「ん?」


あ、そうか。


「大丈夫! 一巡目は、本当に普通のにゃんこのままだから、怖くないよ!」

「ニ巡目は?」

「ニ巡目…?」


ゲームをしたことのない人に、ゲームを説明するのは難しい。私はちょっと考えてから、答えた。


「途中までは一緒。出会いかたも、攻略方法も。ただ、やっぱり分岐点があって、その選択で、魔王は記憶を徐々に取り戻していくの」


私は、一口紅茶を飲んだ。


「魔王の記憶が曖昧だったとき、ティファニーちゃんの優しさに触れ、魔王はティファニーちゃんに惹かれていって…」


それがだいたいの内容だ。


「それが魔王ルートってやつか…?」

「うん」

「猫になって、女子生徒の膝の上でゴロゴロ言って、部屋に泊まるって、それで良いのか?」


眉間に皺を寄せながら、難しい顔でエリックが言う。


「猫だよ?」

「いや、魔王なんだろ」

「でも、記憶は無いし…」


記憶が戻ってくるのはゲームの後半だ。

それまでは、普通の猫。


「それで、いいのか…」


今一、エリックが言いたいことが分からない。


「ここが、ニ巡目の世界だったら良かったのにね」

「いや、そっちの方がまずいだろ…」


疲れたようにエリックが言った。


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