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悪役令嬢ですが、シナリオを順守することに決めました  作者: 飴屋


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12/25

12,ソフィアとビクター

当分は好感度を上げる時期だから、特に私の出番はない。


ゲームで悪役令嬢としてソフィアが出てくるのは、夏休み開け。

でもすっかり忘れてたけど、ここは私の日常で、そして私は王子様の婚約者…!!




「お待たせしました。ビクター様」

「いや。…よく似合ってる」

「まぁ、ありがとうございます! この日のために作らせましたの」


私はとっておきのドレスを着て、にこりと微笑んだ。


初夏らしい白く繊細なレースをふんだんに取り入れた、真っ白なドレス。歩く度にヒラヒラふわふわと動く裾が楽しい。


大好きなビクター様に褒められてご機嫌な顔…をしなければならない。


婚約者同士、交流を深めるための一月に一度のデート。


これが毎日ソフィアが生徒会室に押し掛けてこないための、ビクター様の予防線。


月に一度は君のために時間を作るから、ほかの時間は仕事を優先させて欲しい。


ビクター様に言われたソフィアは、まず「君のため」と言うところで喜んで頷いた。

その後家に帰ってから、「月に一度」に不満を持ったものの、使用人たちに

「ビクター様のお仕事のために耐えるなんて素晴らしい!」

と持ち上げられて納得したのだ。


もちろん演技である。


私の中に眠っているわがままソフィアを表に出しただけ。


ただ、ビクター様は予測以上に忙しかったようだ。四月から今回の七月まで、約束は守られず、私としては平和な時間だった。


特にイベントや伏線でないのなら、悪役令嬢の演技はあまりしたくないのになぁ。特に今日なんかは自由演技だし。


そう思いつつも、ここでソフィアから断るわけにもいかないので、にっこりと微笑む。


「三度も約束を破ってしまって悪かった。今日は一日空けたので、君の好きなところに行こう」

「まぁ! 嬉しいですわ」

「どこか行きたいところは?」


ドレスにお菓子に宝飾品。

ソフィアが行きたそうな所はすぐに思い浮かぶ。

でも。

ずっとティファニーちゃんを見てたからわかる。

生徒会のお仕事は今、とても忙しそうだ。

秋には色々と学校行事が多く、更にこの人は王子としての公務もこなさなければならない訳で…。私は、疲れを見せないビクター様に言った。


「…わたくし、お芝居を見てみたいですわ」


芝居なら座ってるだけ。

薄暗い中なら、うたた寝だって出来ちゃう。


「芝居?」


ソフィアらしくはない答えだ。

ビクター様に怪しまれないように、言葉を重ねる。


「えぇ。最近流行りの演目があるそうですの。お友達に教えてもらって。よく聞いてみたら衣装は、いつも懇意にしている方が監修したそうで!」


流行り、衣装のドレス。

どれもソフィアの好きな言葉なのでビクター様も納得してくれるだろう。でも一応もう少し、理由を付け足す。


「それに、父と母も学生時代、劇場でお芝居を見たと言っていて…」

「あぁ。なるほど。では、芝居にしようか」


どうやら納得してくれたようだ。

公爵邸からビクター様のエスコートで国一番の劇場へ連れていってもらう。


劇場は、観たこともないくらいに広くて、ただの出入り口なのに天井が高かった。所々に飾られた花も豪華で、他のお客さんもみんな綺麗なドレスを着てる!


気圧されそうになるけれど、ソフィアだって公爵令嬢。

澄ました顔で、ビクター様の腕に手を掛ける。


もちろんと言うかなんと言うか…、一番良い席に案内された。

桟敷席なので軽食をとりつつ、プライベートな空間でゆっくりとお芝居を楽しめる。


唯一の誤算は、ビクター様も普通に観覧していたことだった。

お腹いっぱいで薄暗く、演目はよくある恋愛物!


絶対寝てしまうだろうと思っていたのに、良い姿勢を保ったまま、しっかりと物語を追っている。


「ソフィア?」


思わずビクター様を見ていたら、視線に気付かれてしまった。


「あ、いえ。…」


流石に寝ても良いですよ。とは、言えない。誤魔化すために、お茶を一口飲んだ。


「この後のことだが」

「?」


食事もしたことだし、公爵邸に送り届けてもらって終わりだろう。

ビクター様も忙しいから、早く学校に帰りたいはず。

…でも、ソフィアなら、駄々をこねなくちゃいけないのだ。

嫌がられると分かっていることをしなければいけないのは、少し憂鬱だった。


「…宝飾店で良いだろうか?」

「えっ」


まさかの発言!

デートはまだ続くんですか!?


思わず言いかけそうになったので、持っていた扇子で口を隠した。


「もちろんですわ」


自分が行きたかった場所に連れていってもらってご満悦。の顔。


でも、おかしいな。

ビクター様はソフィアに興味はなかったはず。

なんで、自らソフィアとの時間を増やそうとしているんだろうか?





「これ…」


退屈なお芝居を見終わって、多分、国で一番古く高級な店に連れてきてもらう。


もちろん、ソフィアも御用達だ。


そこで特別室に案内される途中で、私はそれを見つけた。


ピンクダイヤモンドに似た、透明感のあるピンク色の石のネックレス。


石は小ぶりで、ソフィアなら見向きもしないシンプルなデザイン。


ただ、このネックレスには見覚えがあった。

それは『七色の虹』に出てくるアイテム!


年末に行われる舞踏会のときヒロインが首に飾るもの。実際に数量限定で同じものが販売されたのを、ネットで見たことがあるから、間違いない!

…欲しかったけど値段が高すぎて、私には手が届かなかった。


「…」

「ソフィア?」


私が立ち止まったから、ビクター様が不思議そうに戻ってきた。


「何か、お気に召したものはありましたか?」


このお店の店長さん、を越してお店の奥から急いでやってきた偉い人が優しく訊いた。


「あっ、ええと」


そのとき、本当に小さな声で、「このネックレスが欲しい」と声が聞こえた気がした。


それはどこかで聞いたことのある声で「このネックレスが欲しい。このネックレスがわたくしのものになれば、ビクター様はわたくしから離れていかないのでしょう?」

と。


「あっ…」


これは「ソフィア」だ。

悪役令嬢でわがままな女の子。

ティファニーちゃんに意地悪ばかりしている。


今、ここでこのネックレスを買ってしまえば、物語は改変される。このネックレスがティファニーちゃんの手に渡らなければ、物語は変わってしまうのは間違いない。

でも、だからと言って、ビクター様がソフィアを好きになるのとは違うよ?


そう考えても、私の中の「ソフィア」が色々言い訳を重ねる。


わたくしの婚約者を誘惑するティファニー・アンブローズが悪い。

庶民のくせに、身の程知らずな方が悪い。

わたくしの方が被害者よ。


「お嬢様がご覧になっているのは、こちらですか?」


頭の中でごちゃごちゃうるさい「ソフィア」を黙らせるため、私は店長さんに頷いて見せた。


「えぇ。これを見せてちょうだい」

「かしこまりました」


店長さんは、ピンクダイヤモンドのネックレスの隣のアメシストのブローチを手に取った。




「今日はとても楽しかったですわ」


夕暮れの馬車の中、隣に座るビクター様に私はご機嫌でお礼を言った。

お芝居にお買い物。

その後に、お茶まで飲んで一日中構ってもらえたソフィアはご機嫌だ。

あの宝飾品店のブローチは、ビクター様が買ってくれた。

髪飾りに直してもらって、届くのは一週間後。

この後、まだ書類仕事が残っているビクター様の予定など気にしないフリをして、私は無邪気に喜ぶ。


「ビクター様からの贈り物。大事にしますわ」

「すまないな。 俺と一緒に学校に戻ることになって」


家まで送ると言ってくれたけど、それだとビクター様は遠回りになる。

だから私は馬車に乗るとき、学校に行きたいと伝えた。


「えぇ。わたくし、忘れ物をしてしまったので、寮に行かなければならなかったんですの」

「…君が?」


うっ。

ですよね。ソフィアなら、使用人に命じて持ってこさせるだけ。

流石。長い付き合いのビクター様。ソフィアのことがよく分かっていらっしゃる…。


「えっ、ええ。…」


何て誤魔化そうか考えていると、馬車が止まった。

馭者が声をかけて扉を開けてくれる。


「ご苦労」


運良く、学校に着いた!


「それでは、ビクター様。ごきげんよう」


馬車から降りるのをエスコートしてもらって、その手をさっと離した。


「あ、あぁ…」


若干、淑女らしさには欠けた行動だけど、ここでボロが出るよりかはいい。


私は振り向かないで女子寮に向かった。



ソフィア;ビクターの婚約者。

兄が一人いる。


[公式ファンブックより]

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