108,ヒロイン
「今までのお話は、私には難しくて。完全には理解できていませんが」
ティファニーちゃんの目が七色に輝く。
それは頼もしい姿で、いつもは嬉しかったのに。
今はただ、絶望した。
だって、ティファニーちゃんのふるう魔法に、魔王様は絶対に敵わないのだ。
「エリックさんは、この搭から出たいんですよね」
「…そうだな」
エリックは戸惑いながらも答えた。
「でも、まだパトリシア様の封印が完全には解けていないんでしょうか。私たちは、普通に入れたのに」
「あぁ。どうやら、俺は出られないようになってるようだ」
エリックが近くの小さな明かり取りようの窓から手を出そうとする。けど、それは途中までだった。
パントマイムのように、何かにあたって手が止まった。
「絶対に、王に渡さないためか、目覚めたとき、俺が暴れだすとでも思ったのか。今となっては分からないが、この通りだ」
ティファニーちゃんは、窓を見た。
そして小さく、空が見えない、と呟いた。
「…それに、魔法で自分を攻撃は出来ないしな」
だから、塔を壊す以外に方法がないんだ。
エリックの言葉にティファニーちゃんは首を振った。
「いいえ。きっと、大丈夫です」
真剣な眼差しでティファニーちゃんは、エリックの腕を掴んだ。
そのままぐいぐいと引っ張る。
「おい?」
「取りあえず、風は全部消してください。まだ早いです。それは、最後の手段に取っておいてください」
「ティファニー…」
ビクター様のたしなめるような声に、ティファニーちゃんは一度うなずくけれど、詳細は語らない。
これは、言ったら怒られるから言わないで押していく、あのパターンだ。
「…」
ふわりと消えた風に、ティファニーちゃんは満足げに微笑んだ。
そして、そのまま歩きだす。
「だって、パトリシア様は、あなたを守るためにここに封印したのでしょう?」
階段に差し掛かり、ティファニーちゃんとエリックは一列になった。
でも、ずっと腕を離さない。
「ビクター様も、仰っていました。あなたは、悪い方ではないと」
階段を下りる二人の足音と、訥々と語るティファニーちゃんの声。
それは、魔法を発動させる詠唱や祈りの言葉にも似ていて。
それを聴きながら、私とビクター様は二人の行くさきを見た。
「私も、そう思います。ソフィア様を見るあなたの目は、とても優しい」
「だから、また眠れと? そのときは、国を壊す」
エリックが階段の先の地下室を見た。
魔法を使ったのだろう。
一階から地下室に行くための階段が、大きな音を立てて崩れた。
大きな音と砂ぼこり。
でも、ティファニーちゃんは一切怯まなかった。
「いいえ。封印はしません」
はっきりとティファニーちゃんは告げた。




