102,魔王様の正体2
「エリックなんでしょ。…どうして、言ってくれなかったの」
この話し方、優しい目。
この一年間ずっとずっと側にいてくれた大事な人だ。
私が呼び掛けると、その人は困ったように頭をかいて目を逸らした。
「…ソフィアは魔王を討伐するつもりだと思っていたからな」
「…!」
それは、目の前の人がエリックだと認めた瞬間だった。
信じたくないと言う思いと、やっぱりと言う思いが入り交じる。
もう心も頭もぐちゃぐちゃだ。
「…討伐するつもりだと思っていたなら、なんでやめさせなかったの?」
ずっと、エリックは私の側にいてくれた。
邪魔することだって出来たはずなのに。
「あの日、偶然見つけた生徒が、俺の過去と未来を話し出したときに、安堵したから」
「安堵…?」
「やっと、終われると」
「…」
「用務員は楽しかったけど、ずっとここにいるのはさすがに飽きた」
…魔王様は、自分の体が封じられたこの時計塔から遠くへは行けなかった。
その範囲は、大体学校の敷地内。
だから、学校の外へは行けなくて。
「…でも、なんで。にゃんこ様じゃないの…?」
「…二周目の俺が何を思って猫を選んだのかは、分からないが。ソフィアも言っていただろう? 魔力が戻りつつあったとき、魔力だけこの塔から出て、側にいた生き物の姿を真似たって」
「それが、用務員さんの姿だった?」
「あぁ。…でも、記憶は戻ってなくて、ずっと怖かった。偶然、文化祭の舞台を見るまでは」
文化祭の舞台…。
「あっ、パトリシア様とロバート様の…」
あの舞台は、一番有名で無難な物語。
毎年どこかのクラスが上演しているって、エリックは言っていた。
「あぁ。それを見て思い出した。俺がなんで、ここにいるのかを」
毎年見てたのは、忘れないため…?
「まぁ、さっき鐘が鳴って、ここに強制的に引き戻されたとき、また忘れたけどな。…その子がいなければ、多分、ソフィアにも怪我をさせたと思う」
魔法石をエリックから奪い取ったとき、ティファニーちゃんが叫んでくれたんだ。
「うん。言ったでしょ。ティファニーちゃんはみんなを救ってくれるって」
あの時、魔法は使っていなかったと思うけど、救国の乙女の声でエリックは我にかえれたのだ。
私がそう説明すると、なぜかエリックとビクター様が微妙な顔をした。
「…うん。そうだな」
「あの時、私はソフィア様の名前をお呼びしただけで、魔法は使ってませんでしたが…?」
ティファニーちゃんが呟くと、ビクター様が軽く咳払いをした。
「結局、お前は長い間ずっと、用務員として過ごしてきたのか?」
「あぁ。昔は今よりも管理が緩かったから、ごまかすのは楽だったな」
「…なるほどな。…この学校の噂話のもとはお前か」
あっ、と、ティファニーちゃんが何かに気付いたように言った。
「真夜中に鳴り響くパイプオルガン。一つ足りない新年祝賀のケーキ…」
「あぁ。どれも曖昧なものばかりだったから、設備の点検をしている用務員や警備員を生徒が見間違えて生まれたものだろうと、思っていたが…。用務員に化けていたとは」
「…ケーキを盗み食いしたことはないからな」
「しかし、用務員のときに着ていた服とポーチは?」
「…予備の服をがめたことはあるけど、だいたいは、辞めた奴が捨てたのを拾ってた」
それは…!
「あのポーチは、それであんなにボロボロだったの…?」
「捨てられた時は、まだそんなには壊れて無かったけどな。百年使ってれば、それなりに」
「…百年…」
この学校は広いけど、でも、ずっとここにいたらって考えると…。
「それで、答え合わせはもう良いか?」




