100,王家の家訓
「剣もダンスも一度交えれば人柄がわかる」
ビクター様が、剣を構える魔王様に向かって言った。
「昔から、王族が親から子に繋いできた言葉だそうだ。だから、手を抜くことなく、精進せよと」
それは初めて聞いた。
ビクター様は、こんな雪の降る寒い日でも鍛練を欠かさない。その言葉を守っていると言えるだろうけど…。
なぜ、今その話なんだろう?
「お前は、それなりの剣の使い手だろう。しかし、剣を打ち合っていても一度も敵意を感じない」
「…おい」
「そこで怒るくらいなら、俺たちが『くだらないおしゃべり』をしているときに、攻撃してくればよかったんだ。隙はたくさんあっただろう?」
「ビ、ビクター様?」
確かに、魔王様のことよりも、話に夢中になってたけど!
まさか、わざとだったの?
驚く私にビクター様が頷いた。
「君が言っていた通り、敵意が無ければ、何もしてこないようだ」
「…」
わかってくれて嬉しいけど!
なんだか、ビクター様の方が悪役のように笑った。
…悪役令嬢の婚約者が悪役…?
「お前は、パトリシア妃とロバート王が封じた者なのだろう」
魔王様は、いつの間にか頭を押さえていなかった。もう、記憶が戻ったのだ。
だからか、ビクター様の言葉に苦く頷いた。
「だが、本当に魔王か?」
ビクター様が聞いた。
それは、前にも言っていたこと。
「ビクター様、どう言うことですか?」
魔王様が魔王様じゃなければ、本物はどこに?
「…魔王とは魔物たちの王。しかし、魔物はいない。魔王の臣下や仲間の話も聞いたことがない。では、誰がお前を魔王と呼んだ?」
魔王様は顔をそらしたまま、何も答えなかった。
「あの、魔王様が暴れた時に被害にあった人とかでしょうか?」
「それなら、魔王ではなく、魔物の方が先にくると思う。もしくは、怪物か」
それで、なんとなくビクター様が言いたいことが分かった気がした。
「つまり魔物が複数いて、そのなかでひときわ強かったから王と呼ばれるようになった…?」
それだと、魔物がまだどこかに封印されているのかも!
慌てる私にビクター様は言った。
「いや、さっき言ったように、他の魔物の記述はどこにもないんだ」
「…?」
わからない。
なら、この魔王様は誰?
「魔王を討伐せよ。と当時の王の命を受け、パトリシアとロバートが向かった」
それは、お芝居の序章でも使われている文句。
「一番始めにお前を魔王と呼んだのは、当時の王だな?」
魔王様がため息をついた。
「…俺が自分で名乗ったとは思わないのか?」
「突然現れて、魔王と? それを誰が信じる」
…確かに。
すごく強くて、類いまれなる美貌の持ち主ではあるけれど、この方は、角が生えたり翼が生えたりしていない。
見た目が普通の人型なのだ。
「王と呼んだのは、己が王族だったから。対等な存在であると認めてのことだったのだと俺は考えている。…では、なぜ認めたのか」
ビクター様の顔が険しくなった。
「…お前を魔王として『討伐』する必要があったからだ」
…?
私とティファニーちゃんは顔を見合わせた。
魔王様に悪意が無いと分かってくれたのは嬉しいけれど、話の方向が全くわからない。
「…俺の魔力を、王が欲しがった」
ポツリと、魔王様が言った。
「他国との争いが始まって、強力な武器が必要だったらしい」
「!」
ここは山に囲まれた小さな国。
戦争は昔のこと。
…昔は、戦争をしていた時代があった。
「それで、お前から魔力を奪い取ることを正当化するために…」
ビクター様は言った。
「お前を魔王と呼んだのか?」




