花送り
そして、旅立ちのときがやってきた。
「えっ!?なんで?」
城門前には、朝焼けの中、静かに人々が集まっていた。
兵士たちは列をなし、民たちはそれぞれの思いを胸に見送る準備をしていた。
「なんか……大げさじゃね?」
カナトがぽつりと呟く。
ミコトは黙って首を振った。
「……感謝の気持ちだよ」
その瞬間だった。
空から、花が舞い降りてきた。
赤や金、白い小花が風に乗り、空からふわふわと舞い落ちてくる。
それは、この国で“英雄が旅立つ朝”にだけ行われるという儀式――
『花送り』。
ざわ……と人々が道を開ける。
現れたのは、王冠を脱ぎ、正装姿のまま歩み寄る王。
その顔に、誇りと深い感謝の色が浮かんでいた。
「ミコト・カナト」
「……あなたたちがいなければ、我が国はもう立ち上がることすらできなかった」
そう言って、王は深く、静かに頭を下げた。
「あなたたちが困ったときは、我が国が力になります。
それを、王として、ここに誓います」
ミコトは静かに頭を下げ返し、
カナトは軽く手を上げて「そんときゃ頼むわ」と笑った。
そして――
2人は歩き出した。
背中に、花弁がひらひらと舞い落ちる。
見送る人々の拍手と、風に乗る祈りの声。
けれど彼らは、振り返らなかった。
前だけを見て。
まだ見ぬ世界へ。
これから出会う誰かのために。
そして、歩くことしか選ばなかった彼ら自身のために――
英雄たちは、歩いてゆく。
花の降る道を、
共に――。