命を灯す石
あの事件から、二週間が過ぎようとしていた。
「婚姻にごねてたセラを殺そうとして……結局あの爆発、元王妃の仕業だったってわけかー。
やばいやつだったなー」
カナトが新聞らしき紙を手にしながら、ソファでだらりと脚を投げ出して言った。
赤茶けた活字の紙面には、“元王妃・反逆の罪で処刑”の見出しが大きく載っている。
「もう、カナト。準備しちゃってよ」
ミコトが背中越しに声をかけると、カナトは新聞をくしゃりとたたみ、のそのそと立ち上がった。
「はーい」
トントン、と扉が叩かれた。
「へいへーい」
カナトがふざけた調子で応じると、扉の向こうから優しい声が返ってくる。
「こんにちは」
「――あ! セラさん!」
ミコトが目を輝かせて振り向くと、淡い緑の外套をまとったセラが、ほのかに微笑んで立っていた。
「今日、出発するの?」
セラが部屋の中を見回しながら尋ねると、カナトがあっけらかんと答えた。
「ミコトが国王から表彰されるの嫌だからって、今日急いで出発するんだと」
「当たり前のことをやっただけなのに、そんな……大げさな儀式、恥ずかしいだけです」
ミコトは赤くなった頬を隠すようにうつむいた。
セラはそんな二人を見て、ふっと笑みを深める。
「あなたたちがいなければ、我が国は衰退の一途を辿っていました」
少し背筋を伸ばし、女王としての顔で語る。
「女王として、心より感謝いたします。……そしてこれは、国からの贈り物です」
彼女は胸元から、小さな木箱を取り出した。
古い銀の細工がほどこされたその箱を、両手でそっとミコトへ差し出す。
「……私に?」
「お二人に、です」
セラは優しく頷いた。
ミコトが箱を開けると、中には――
琥珀色の鉱石がはめ込まれた、手のひらほどのペンダントが静かに収まっていた。
まるで内側から微かに光を放つように、鉱石は小さく揺れている。
「……きれい……」
ミコトが思わずつぶやくと、カナトがその肩越しに身を乗り出す。
「おおーっ、なになに? これ、めっちゃ高そう……もしかして、なんか魔法アイテム的な……願い事とか叶う系!?」
「おいっ」
ミコトがぴしゃりと彼の額を指で弾いた。
セラはくすっと笑いながら、ペンダントを見つめる。
「この鉱石は、かつてこの国を支えていた“心臓鉱”と呼ばれるもので、
王家の宝物庫に代々保管されてきたものです。
願いを叶える――そんな言い伝えも残っています。
けれど本当の意味は、“命をつなぐ力”を持つということ」
ミコトはゆっくりと目を上げた。
「命を……?」
「この国で、あなたたちが守った命たちが――未来へと続くように。
この鉱石に宿った光が、その道を照らしますように」
セラはそう言って、そっと微笑んだ。
扉の外に風が吹いた。
旅立ちの朝は、静かに、けれど確かに近づいていた――。