炎の中の希望
「セラさん!!」
黒煙の中を駆け抜け、ミコトが叫ぶ。
火の粉が舞い、地面は熱を帯びていた。
「ミコト!? なんでここに来たの!? 危ないから、下がって――!」
セラは声を荒げるが、ミコトは一歩も引かなかった。
「すごい怪我……っ!! セラさん……!」
血で濡れたセラの肩、ひどく裂けた皮膚。
ミコトは震える手を伸ばし、そっと触れた――
その瞬間――淡い光が、ミコトの手のひらから溢れ出した。
「……えっ……?」
セラの目が見開かれる。
光はゆっくりと、傷口を包み、血が引いていく。
裂けた皮膚が塞がれ、深くえぐれていた肉が、少しずつ――修復されていく。
「……うそ……癒しの、力……!?」
セラが呆然と見つめる中、ミコトはふらつきながらも立ち上がる。
目には決意が宿っていた。
「怪我をしている人たちは、こちらへ!」
「え……?」
「私が直します!!」
大声が、煙と悲鳴の中で、響いた。
「今なら、まだ間に合います!
大丈夫! 怖がらないで……! 大丈夫だから!!」
その声に――傷を負った者たちが、ひとり、またひとりと近づき始める。
子どもを抱えた父親。
焼け跡の中から引き出された少年。
肩を砕かれ、立てない鉱夫。
ミコトは、全員の手を取り、額に触れ、
そのたびに、光がふわりと咲いた。
「これは……奇跡だ……!」「…本物の癒し手が……!」
人々のざわめきが変わった。
“悲鳴”から、“希望”へと。
そして――セラが、震える手でミコトの手を握った。
「……あなたが……」
「おとぎ話でよく出てくる癒し手様……なの?」
ミコトは、ゆっくりと頷いた。
「おとぎ話は分からないけど……私は人を癒せます」
セラは、少しだけ笑った。
「……そう。じゃあ、もう怖いものなんてないわね」
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爆心地の騒ぎは、徐々に鎮まっていった。
人々が安堵の涙を流しながらミコトに礼を述べ、
セラはふらふらと立ち上がりながら、空を見上げる。
空にはまだ、黒煙が漂っていた。
けれど――その向こうには、確かに“光”が見え始めていた。
セラがぽつりと呟く。
「……あなたの存在が、国を変えるわね」
ミコトが、はっと顔を上げる。
「……でも、私、そんなつもりじゃ――」
「いいのよ。あなたが“望むこと”だけをして。
でも、忘れないで。誰かを癒せる人は、それだけで“希望”になれるの」
ミコトは胸元をぎゅっと押さえる。
燃え尽きた瓦礫の中で、セラとミコト――
ふたりの“存在意義”が重なってゆく。