やさしい声の奥に
ミコトは、村の一角にある小さな家へ案内された。
木造の家は古びてはいたが、綺麗に掃除されており、
どこか“人が住んでいるぬくもり”すら感じられる。
「ここで休んで。食事はすぐに持ってくるからね」
そう言って出ていった男の背を、
ミコトはしばらく見送っていた。
(……大丈夫、大丈夫……
カナトもきっと、すぐ見つけてくれる)
心細さをかき消すように、ミコトは深く息を吐いた。
その胸には、わずかな違和感がくすぶっていたけれど――
空腹と疲労が、その感覚を麻痺させていく。
やがて、扉の外からコトンと音がして、
木盆に乗った食事が運ばれてきた。
湯気の立つスープ。焼いた根菜。
柔らかなパン。甘い香りのするお茶。
「いただきます……」
一口、二口――
温かい。優しい味。
(……本当に、いい人たちなのかもしれない……)
(疑ってごめんなさい……)
そう思ったのは、
意識が揺れ始めた、ほんの少し前のことだった。
スプーンを握っていた手が、
ゆっくりと力を失って落ちる。
(あれ……なんか、眠い……?)
視界が、ぼやけていく。
身体が冷えていく。
椅子の背にもたれるように、
ミコトの体が傾いで――
――ガタン。
スプーンが床に落ちた音を最後に、
部屋は、静寂に包まれた。
***
扉の隙間から、静かに顔を出したのは、
さっきまで穏やかな声を出していた、あの男だった。
彼は、ミコトの倒れた姿を確認すると、
ふうと息をついて、部屋に入る。
「……素直な子でよかったよ」
そう言って、
ミコトの身体を、静かに抱きかかえる。
その目に、もう“笑顔”はなかった。
***
ミコトが次に目を覚ますのは――
光の届かない、暗い地下牢。
その膝の上に、
“最初の絶望”が座っている。
――つづく。