婚姻発表と、隊長辞職のご報告
その日――
王都中に、“ある発表”が駆け巡った。
『第一王子レイガと、癒し手ミコトとの婚姻が正式に決定された』と。
誰もが驚き、誰もが噂した。
けれど、その当人――ミコトは、静かな別邸の一室で、ひとりぼんやりと空を見ていた。
「……旅に出ていいって、レイガは言ってくれたけど……
本当に、このまま出てもいいのかな」
呟く声は、小さく震えていた。
「レイガの立場とか……悪くならないかな……」
「――なぁに悩んでんの」
唐突に、窓からひょいっと顔を出す男がいた。
「え?」「え?」
思わずミコトも、そばにいたフキも声を重ねる。
カナトは、悪びれた様子もなく言った。
「大丈夫大丈夫!レイガなんて関係ねぇだろ?
旅、出ちゃおうぜー!」
「あんた、なにしてんだい!?仕事は!?」
フキが目を剥いて問いただす。
カナトはぽりぽりと頬をかきながら、平然と答えた。
「ん?護衛。てか、ばあちゃん、俺さ――
ミコトと旅するから」
「……えっ!?」「えっ!?!?!?」
フキとミコトの声が同時に跳ね上がる。
さらに、その声を聞きつけて入ってきたシオンが問う。
「カナト。お前、仕事はどうするんだ?」
すると――
カナトは、めんどくさそうに肩をすくめて、
「はぁ?辞めるに決まってんじゃん。
こんなクソみたいな国、もう知らねーよ」
堂々、王国騎士団・現役隊長、まさかの辞職宣言である。
その瞬間、室内の空気が止まった。
唯一、カナトだけが飄々と笑っていた。
「旅先じゃ、俺も“ただの男”だし。
ミコトが本当に誰を選ぶかは――そこから、だろ?しかも他国いけば、レイガの婚姻なんて関係ないだろ?」
***
その背中は冗談みたいに軽いけど、
口にした想いは、冗談みたいに真剣だった。
「俺は本気で、ミコトを嫁にしたいんだよ」