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帰る場所

別邸・朝――


陽の光が差し込む食堂に、カナトのだるそうな声が響く。


 


「……っつーか俺、昨日……やっちまったな……」


 


焼き魚を前に、箸を持ったまま頭を抱えている。


 


「反逆罪で……打首確定なんだけど……どーする俺……?レイガすげー怒ってたなー」


 


ミコトは、驚いたように目を丸くした。


 


「えっ!? カナト、死んじゃうの!?」


 


「そーだよ……もう“首置いてけ”って言われたら、どーしよー」


 


「ダメだよ! そんなのダメだよ!!」


 


ミコトは立ち上がり、テーブルに両手をついて叫んだ。


 


「私一応癒し手だよ!? 癒し手の力で絶対に……絶対にカナトは死なせないから!!」


 


その言葉に、カナトは目を見開いた。


 


「……え、それ、愛の告白か?」


 


「えっ、ちがっ、そ、そういう意味じゃっ……!」


 


ミコトが顔を真っ赤にしてあたふたしていると――


 


「――このバカタレがぁ!!」


 


どすん!!


 


フキの手刀(お玉付き)が、カナトの後頭部に炸裂した。


 


「おとなしくご飯食べな!! あんたたち、朝から騒ぎすぎ!!」


 


「いてっ!? ば、ばあちゃん――暴力反対!!

それより孫の命の心配してよー」


 


「反逆罪より朝ごはんの心配しな!! 味噌汁が冷める!!」


 


ミコトは、くすくすと笑った。


重たい空気は、もうどこにもなかった。


 


「……ほんとに、ここに来てよかった」


 


そう呟くミコトの声は、とても穏やかだった。



***




別邸・縁側――

光が差し込む中、どこか気だるげな空気が漂っていた。


カナトは柱にもたれ、みかんを剥いている。

その横で、ミコトは縁側に座り、足をぷらぷらとさせていた。


 


そこへ、シオンが無言でやってきた。


手には資料の束。

眉間にしわを寄せ、低い声で言い放つ。


 


「……カナト。いい加減、仕事しろ」


 


「ええ〜……無理〜……。今王宮戻ったら絶対拘束されるじゃん……。

 俺もう反逆者だし……」


 


カナトは寝転がりながらぼやく。


 


「ていうか、俺、しばらくここにいるから。

 ミコトとずっと一緒にいたいし。うん、逃げよ」


 


「おい」


 


シオンがぴしゃりと資料でカナトの額をはたいた。


 


そのやり取りを、黙って聞いていたミコトが、ふと口を開く。


 


「……じゃあ、私も一緒に行くよ」


 


一瞬、時が止まった。


 


カナトが跳ね起き、ミコトを見つめる。


 


「は……? 何言ってんの?」


 


ミコトは立ち上がり、まっすぐにカナトを見る。


 


「私も一緒に王宮に行く。

 癒し手の私が、“この人は守るべき人です”って言えば、

 少しは……減刑してくれるかもしれないし」


 


カナトもシオンも、しばらく言葉を失っていた。


けれどミコトは、ふっと微笑んで続ける。


 


「……それに、大丈夫だよ。

 私、もう一人じゃないから。ここに“家族”がいるから――」


 


その言葉に、朝の光がそっと寄り添うように降り注いだ。


カナトは、なにか胸の奥を掴まれるような気がして、目を細めた。


 


(……くそ。やっぱ惚れる……)


 


思わずそんな言葉が喉まで出かけて――

必死に飲み込んだのだった。



***



別邸の門前。

朝靄の中、二つの影がゆっくりと歩き出そうとしていた。


 


ミコトとカナト。


その背を、フキがじっと見つめていた。


 


「……ほんとに、行くのかい?」


 


声は震えていた。

けれど、止めることはしない。

その手には、握りしめられた包み――おにぎりが二つ。


 


ミコトが振り返る。

そして、にこりと笑った。


 


「ありがとう、フキさん。帰ってきたら、また一緒にご飯食べようね」


 


その一言に、フキはとうとう目を潤ませた。


 


「……ミコト……今度は……ちゃんと、帰っておいで……」


 


「うん」


 


「今度こそ、あんたの居場所は、ちゃんとここにあるからね……!!」


 


フキは涙を流しながら、力いっぱい二人を抱きしめた。


 


カナトは、苦笑しながら頭をかいた。


 


「……やべ、なんか、罪人が送り出されるって感じになってね?」


 


ミコトは笑った。


「カナトのせいでしょ」


 


***


王宮――正門前。


兵たちの目が、異変に気づく。


 


「隊長!? ……ミコト様……!?」


 


ざわめきが広がる。


一斉に敬礼の姿勢に入る者と、動揺を隠しきれない者。


 


そして、誰かが慌てて門内へと走っていった。


「レイガ様を――レイガ様をお呼びしろ!」


 


その数分後。


 


足音が響く。


レイガが、いつもの冷たい表情で姿を現した。


 


その目が――止まった。


門の向こうに、並んで立つ二人。


 


カナトと、ミコト。


 


しばしの静寂。


そして、レイガがぽつりと呟く。


 


「……よく、帰ってきたな」


 


その声に、ミコトはふっと微笑む。


 


「……里帰りしてただけだもん」


 


その言葉に、一瞬だけレイガの目が揺れた。


 


けれど、すぐに表情を引き締める。


「……門を開けろ」


 


門が開かれる。


ミコトは、少しだけ後ろを振り返って――


(フキさん、ちゃんと帰ってきたよ)


心の中でそう呟きながら、まっすぐにその中へと歩き出した。


 


隣には、どこか誇らしげに胸を張るカナトの姿。


その後ろに、王宮中がざわめき始めていた――


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