寝息の日常と決意のカナト
あれから2ヶ月が過ぎようとしていた――
毎晩のように彼女は、俺の部屋を訪れるようになった。
理由は、最初と同じだ。「なんとなくレイガに会いたくなった」。
けれど、その理由を、誰も咎めることはしない。
騎士たちも、カナトでさえ、もう何も言わなくなった。
そして、俺も。
気がつけば、
ミコトが来るのを“待つ”ようになっていた。
あの夜、枕を抱えて戸惑っていた彼女は、
今では「ただいま」と言うような声で扉をノックする。
最初はソファ。
でもいつの間にか、それでは寝苦しいと言い出して、
今では……同じベッドに、当たり前のように並んで眠る。
ぬくもりがすぐ隣にある夜。
その寝息を感じながら、俺は……眠れなくなることが多い。
(これだ。……これなんだよ)
ミコトのいるこの時間が、
どんなに俺を救ってくれていたか、
本人はきっと知らない。
けれど――
俺はもう、戻れない。
彼女のいない夜が、
想像できなくなっていた。
別邸の夜。
暖炉の火がぱちぱちと鳴る中、カナトはクッションに顔を埋めながら、ぼやきまくっていた。
「なぁばあちゃん……ミコト、やっぱ守れない男なんて、嫌いなのかなー……」
フキは黙ってお茶をすすっている。
「おれさ、嫌われてるのかな……もう、5ヶ月だぜ!? 帰ってこないの!」
ソファを蹴るようにして立ち上がる。
「しかもレイガと! 毎晩! 寝てるんだぜ!?!?!?!?!?!?!?!?」
「ありえなくない!?」
「どんだけ優しくされたって、どんだけ大事にされてたって、俺だって、俺だって――っ」
「……くっそおおおおおおおおお!!!!!!!」
頭をがしがしとかきむしりながら、カナトは床に座り込んだ。
「……あ”ーーーもうむかつく! くそッ!」
「……あんたが、弱いからでしょ?」
不意に、フキが茶菓子をひとくち口に運びながら言った。
その言葉に、カナトはびくりと目を見開く。
「……な、なんだよそれ……俺が、弱いからって……」
「ほんとに好きなら、守りな。
言葉じゃなくて、背中で。信念で。命張ってでも。」
「……それができないなら、何も届かないよ」
フキの声は静かだった。でも、胸に刺さった。
カナトはしばらく黙っていたが、やがてそっと目を伏せ、拳を握った。
(……ああ、そうか……)
(……俺、怖がってただけかもしれねぇ……)
ミコトに傷つけられるのが。
もう一度、失うのが。
でも、それでも――
「……もう一回だけ、ぶつかってみてもいいかな」
カナトのその目には、
もう泣き言じゃない、“決意”の光が宿っていた。