裁きの鉄槌(てっつい)――王命発動
ミコトが解放されたその直後。
レイガは馬上から、広場を見下ろしていた。
その目は、冷たいほどに静かだった。
「……そこにいる者、全員」
「国家反逆の罪で、拘束せよ。」
重く響くその命令に、騎士団が即座に動いた。
逃げようとした者、叫ぶ者――全て容赦なく、取り押さえられる。
「貴様らの怒りの正当性など、もはや問わない。
それは暴力によって自ら地に堕ちた。
――“国家に刃向かった代償”、存分に味わってもらうぞ」
カナトが剣を鞘に納めながら、吐き捨てる。
「ミコトに石を投げた奴、全員牢屋で反省してこい。
俺が毎日様子見に行ってやるよ。ニコニコ顔でな」
ざわつく群衆。騎士たちは一切情けをかけない。
国が動いた瞬間、民の“暴走”は、ただの“反逆”へと変わった。
***
王宮――医療塔、特別治療室。
ミコトは、分厚い壁に囲まれている部屋にいた。騎士による24時間体制の警護のもと、治療を受けていた。
顔には包帯。肩に痛々しい打撲の跡。
ただ、呼吸は落ち着いていて、意識もあった。
(……死なない。だけど、痛みはある)
(痛みにも、怒りにも、私は慣れてしまっていた)
静かな部屋に、誰かの足音が響く。
扉の向こう、レイガの姿。
「……ここが、今の“お前の居場所”だ。
もう誰にも触れさせない。国を、動かしてでも」
ベッドの横には、カナトが椅子に座っていた。
「ミコト、お前……もう絶対に、あんな目に遭わせねぇ」
そう言って、ミコトの手を取る。
ミコトは、かすかに笑った。
「……二人とも、大げさすぎ」
「大げさでいいんだよ。これぐらい、大事な存在だってことだ」
***
その日の王都は、静まり返っていた。
あの暴動の爪痕は深く、誰もが「何かが変わった」と感じていた。
でもそれ以上に、
「癒し手に触れた者の末路」を、国民は思い知ったのだった。