あったかいのは、どっちの手
──朝。
鳥のさえずりと、窓から差し込む光。
その眩しさに、ミコトはゆっくりと目を開けた。
(……朝?)
寝ぼけた頭のまま、ミコトは体を起こそうとして――ふと、気づく。
「……え?」
自分の手が、誰かの手に包まれている。
しかも、がっつり握られている。
視線を向けると、そこには――
穏やかな寝顔の、レイガ王子。
「ちょ、ちょっと……!」
頬を染めて手を引こうとするが、
レイガは微かに眉を寄せ、寝言のように呟いた。
「……冷たかったんだ……おまえの手……」
(……え???)
その瞬間――
「おいおいおいおい!!
何してんだテメェ!!!!!」
隣からカナトの怒声が響いた。
「手ぇ!? おい手ぇ繋いでたよな!?!?!?」
レイガは寝ぼけ顔でまばたき。
「……ああ。ミコトの手が冷たくてな。あっためてただけだ」
「いやいやいや!!王子なんだから王宮帰れ!!!
抜け駆けすんな!!バーカバーカ!!」
「はいはい、朝からうるさい。寝起き悪いな、カナト」
「うるせぇ!!!」
カナトが布団をガバッと跳ねのけた瞬間――
「カナト!!!!!!!」
部屋の襖が開き、フキさんの怒声が飛んだ。
「朝から騒ぐんじゃないよ!!!ご近所さんに響くでしょ!!!」
「お、俺じゃねぇよ!レイガが手ぇ――!」
「それがどうしたの!
あんたが騒いで台無しにしてるの!反省しな!!」
「えぇぇぇぇええええ!?!?」
フキさんに耳を引っ張られて廊下に連行されるカナト。
レイガはミコトの横で、のほほんと伸びをした。
「……朝だな。いい朝だ」
「……そう、ですね……」
ミコトは、まだ熱の残る自分の手をそっと見つめた。
(……冷たかったから、なんて。
そう言われたら、もう……反応できないよ)
ほんの少しだけ、心まで、温かくなった気がした。
──朝の静寂は、今日も誰かの心を、ゆっくりと溶かしていく。