夜の真ん中、君のそばで
──夜。
別邸の一室は、深い静寂に包まれていた。
布団は三つ。
並べて敷かれた布団の真ん中には、当然のようにレイガが寝ていた。
「……なぁ、なんでお前が真ん中にいるんだよ」
左の布団で横たわるカナトが、小声でぼやく。
毒の影響はまだ完全に抜けきっていないようで、額にはうっすらと汗が滲んでいた。
レイガは枕に腕を入れたまま、目を閉じたまま、淡々と答える。
「お前が何するか、わかんねぇからな。監視だよ」
「は? 俺、そんなこと――」
「“結婚してもらわなきゃな~”って毒で意識もうろうとしてる時に言ったヤツが何言ってんだ。
そのまま抱きつかれても文句言えねぇだろうが」
「……くっそ、聞いてたのかよ……」
「戦いの時の事は全部報告受けてるし、
お前の寝言は覚えてる。
ミコトに変なことしたら、今度こそ正気でもぶっ飛ばすからな」
「おまえなぁ……」
ぼやくカナトの視線の先、
右の布団では、ミコトが静かに眠っていた。
ほんのりと頬に赤みを帯びているのは、疲労か、夢のせいか。
カナトとレイガは、しばし沈黙した。
「……なあ、レイガ」
「ん?」
「お前、ミコトのこと、好きだろ」
「うん」
「……即答すんなよ」
「だって事実だし。お前もそうなんだろ」
「……ああ。まぁな」
「だったら、さ。どっちが隣で寝ても平等にしとこうぜ?」
「何言ってんだ?」
「明日は俺が左で、明後日はお前が左な」
「それ交代制の意味ある? 寝相で蹴られる可能性上がるだけだぞ?」
そんな他愛もない会話の間にも、
レイガはちらりとミコトに目を向ける。
「でもまぁ、今日くらいは俺が守る。……ちゃんと、隣で」
「なにカッコつけてんだよ」
「お前にだけは言われたくねぇよ、バカ」
カナトは肩をすくめる。
「……でもさ」
「ん?」
「こうして、ミコトの両隣を固めて寝てる俺らって……」
「……めちゃくちゃ優秀な騎士って感じだよな」
「何言ってんだ。俺王子だぞ?」
「マウントとるなや」
ふたりは、同時にふっと笑った。
外はまだ、春の夜。
けれど、この部屋だけは――ほんの少し、あたたかい。
静かに寝息を立てるミコトのそばで、
ふたりの青年は、決して眠ることなく、彼女を守り続けた。
もう二度と、失わないために。