始末書
――数日後。
事件は無事解決し、盗賊たちはすべて捕らえられた。
だが。
「……ぐはっ」
別邸の縁側。
カナトは机に突っ伏していた。
「無理……無理ですって、これ……!!」
畳の上に積まれた紙の山。
それは、彼が剣を忘れたことで引き起こされた一連の事件――その始末書である。
「ぜったい、あの官吏ども怒りすぎだって……!
いや、俺のせいなんだけどさ!? でもさあ!? 一回ぐらい忘れることあるってぇぇ!!」
涙目で呻く隊長の横で、ミコトは黙々と茶をすする。
「……自業自得ですね」
「そんな冷たくしないでぇ!? ミコトさん、ねえ、手伝ってよ。
っていうか、俺の代わりに書いて……! ミコトさんの字、めっちゃ綺麗じゃん!」
「……手伝う理由がありません」
「えっ、ちょ、でも俺……頑張ったよ!? 親父に怒鳴られながら、盗賊と戦ったよ!? レイガ殿下がミコトさんを守ってる間、俺も無双してたよね!?」
ミコトは、ちらりと彼を見やり――
「物置はどうでした?」
「ぐっ……!」
カナトは胸を押さえて崩れ落ちた。
「こ、これが……“本気の仕打ち”……」
「“甘やかしません”って言ったでしょう?」
鬼のように冷ややかな声に、カナトは涙を浮かべて紙束を持ち上げる。
「……っしゃぁ!! こうなったら根性見せるしかねぇ……!」
ぐしゃぐしゃの字で書かれた一枚目。
「……やっぱムリ。ミコトさぁん……」
「はあ……仕方ありませんね。三枚だけですからね?」
「うおおぉおおミコトさん女神~~~!!!」
その日、別邸にはうるさいほどの泣き声と、筆の音が響いていた。
***
そして夕方。
「……で、始末書は?」
レイガが取りに来たとき、机には完璧に揃えられた始末書の束が積まれていた。
「え? 完璧じゃん。……まさか、ミコトが手伝ったのか?」
「三枚だけ! 三枚だけだからな!! 九割俺だから!!」
「……ふぅん」
レイガは半分呆れながらも、小さく笑って頷いた。
「次からは忘れるなよ、隊長」
「……はいぃ」
始末書は山ほど残ったけれど――
今日も別邸には、にぎやかな空気が流れていた。