根性と鉄拳と、まさかのプロポーズ
「――え!? 二千年も耐えたの!?」
カナトの目が見開かれたまま、信じられないというようにミコトを見つめていた。
「俺なんてさ、昔ケンカしてボコボコにして帰ったら、ばあちゃんにバレて……」
「物置に一日閉じ込められただけで、発狂したってのに!!」
「すごすぎだろ、それ!! その根性、マジで気に入った!!!」
そう叫ぶやいなや、カナトは勢いよく立ち上がり――
「俺と結婚するか!?」
し――ん……
ミコト、完全沈黙。
フキ、煮物を吹き出す。
シオン、無言で立ち上がる。
ゴン!!!
またしてもシオンの拳がカナトの頭にクリーンヒットした。
「このスットコドッコイがァ!!!」
「いってぇぇぇ!!!なんで!?なんでまた殴んの!?」
「貴様なぁ!!いきなり何言ってんだ!このバカタレが!!」
ミコトはカナトを見つめながら――
「……にぎやか過ぎる」
静かにため息をついた。
でも――心の奥では、ほんの少しだけ。
くすりと笑いそうになる自分がいた。
ミコトがカナトのアホ発言に呆れかけていたその時――
屋敷の外から、騎士団の若い兵士が息を切らして駆け込んできた。
「隊長!こちらにいらしたんですか!」
カナトが「ん?」とだけ返すと、兵士は一礼して言った。
「敵らしきものを、西側の林のあたりで確認しました。痕跡が……」
その瞬間。
男の表情が、一変した。
軽さの欠片もない。
目が鋭くなり、声が低くなる。
「位置は?」
「第二警備線の手前です。侵入者かと――」
「すぐ戻る。親父、ここの護衛を頼む」
「了解だ」
たったそれだけを言い残し、カナトは無駄のない動きでその場を離れた。
ドアの閉まる音が、やけに静かに響く。
ミコトは――
言葉もなく、その背を見送っていた。
あまりにも、さっきまでと違う。
まるで――「本物の騎士団隊長」だった。
「……嵐みたい」
そう呟いたミコトの言葉に、フキが笑った。
「ばかだけど、あの子、やる時はやるのよ」
その夜――
「ふぃ〜〜〜〜……疲れたぁぁ〜〜〜!!」
ガラッと戸を開けて入ってきたのは、日が暮れた頃のカナトだった。
腕には擦り傷。
服は汚れ、泥まで跳ねている。
「ばあちゃん、ごはーん!」
「ちょっと!床にそのまま座らないで!まずは風呂!消毒!」
「えー、腹が減っては戦はできぬって言うじゃん〜」
「なら風呂にご飯を浮かべてやろうか?」
「すみませんでした」
ミコトは、夕食の準備をしていたフキの背中を見つめながら、ぽかんとしたまま立ち尽くしていたが、ふと、カナトの腕に目を留めた。
「その傷……ちゃんと治療したほうがいい」
すると、カナトはふふんと笑って、親指を傷にこすりつけながらこう言った。
「大丈夫大丈夫、唾つけときゃ治るから!」
「……」
ミコトが呆れているとカナトは胸を張ってこう言い放つ。
「俺はこうやって生きてきたんだ!なあ、ばあちゃん!」
「昔からよ。転んでも捻挫しても、唾で済ませてたわねぇ」
「信じられない……」
呆れるミコトに、シオンがしっかり被せてくる。
「医者に怒られて、泣いて帰ってきたのはどこのどいつだ!!」
「それ今言う!?親父ひどっ!!」
「……そういえばどうして、あなたがここに?」
カナトは、くるっと振り返り、ミコトに当然のように言った。
「俺? 住むよ、ここ!」
「……え?」
「だってさ、俺、最年少の隊長だよ? 超強いんだぜ?」
ドヤ顔で親指を自分に向けるその姿に、ミコトは言葉を失った。
その横で、シオンがすでにタオルを持って追いかけてきていた。
「テメェはまず風呂だ!その汚い格好で女の前に立つな!!」
「ひいいいぃ!!ごめんなさいごめんなさぁぁい!!」
(……にぎやか過ぎる)
ため息をついたミコトの口元には、ほんの少しだけ――笑みが浮かんでいた。
──次回、ミコトとカナトの“距離”が少しだけ縮まる……かもしれない。