王国の行方と新たな脅威
誓約の書が砕け散り、王国に静寂が訪れた。
大広間には、戦いの余韻がまだ漂っていた。王は床に膝をつき、荒い息をついている。雷剣はすでに消え去り、その手にはもはや戦う意思はなかった。
「……これで、すべて終わったのか?」
俺は剣を鞘に納め、セリスを見た。彼女は父である王を見下ろしながら、震える手を胸元で握りしめている。
「父上……本当に、呪いが解けたの?」
王はゆっくりと顔を上げ、深く息を吸い込んだ。
「……ああ、感じる。体が軽くなった……まるで長い夢から覚めたようだ。」
その言葉に、セリスはそっと目を閉じ、涙を拭った。
「なら……よかった。」
俺も大きく息をついた。やっと、ここまで来た。戦いは終わったのだ。
だが、ここで新たな問題が持ち上がった。
「さて、カイ。」
そう声をかけてきたのは、ルークだった。彼は剣を肩に担ぎ、俺をまっすぐ見つめていた。
「……何だ?」
「そろそろ聞いておきたいんだがな。セリスの隣には誰が立つべきなんだろうな?」
その言葉に、セリスが驚いたように顔を上げた。
「ルーク……?」
「俺はずっと、セリスの騎士であり、幼馴染だ。だが、最近の彼女はお前ばかり見ている気がする。」
「待て、そういう話を今するのか?」
「戦いが終わったからこそ、話すんだよ。」
ルークは俺に詰め寄る。
「この国が変わるのなら、セリスも変わるかもしれない。だが、だからといって、お前がセリスを奪うのは納得いかない。」
「奪うって……」
セリスは慌てたように口を開いた。
「ルーク、私は——」
「セリス、お前の気持ちを聞かせてくれ。お前はカイの隣にいたいのか?」
沈黙が降りた。セリスは動揺しながら、俺とルークを見比べる。
「……そんなの、今すぐ答えられない……。」
「ふん、まあいいさ。だが、その答えを俺は待つつもりはない。」
ルークは剣を納め、俺に鋭い視線を向けた。
「カイ、お前とセリスがどうなるか、見届けさせてもらうぜ。」
翌日、王国は新たな時代へと歩みを進めようとしていた。
王は正式に「誓約の書」の消滅を宣言し、国民に「愛とは痛みではない」と告げた。
だが、その改革には反発もあった。
「長年の伝統を捨てるなど、ありえない!」
「そんな言葉で国が変わるはずがない!」
貴族たちはざわめき、改革に異を唱える者もいた。
「……やはり、一筋縄ではいかないか。」
俺はセリスと共に、王座の間で議論の様子を見守っていた。
「当然よ。数百年続いた習慣が、一夜で変わるはずがないもの。」
セリスの表情には不安が浮かんでいた。
「父上は、正しいことをしているのよね?」
「間違いないさ。」
俺は彼女の肩にそっと手を置いた。
「でも、王がどれだけ正しいことを言っても、人々が納得しない限りは意味がない。だからこそ、俺たちが手助けするんだ。」
「……ええ。」
セリスは小さく微笑んだ。
その夜——
王都の外れにある城壁の見張り台に、不審な影があった。
「……カイ、起きてる?」
セリスが俺の部屋を訪れ、そう囁いた。
「ああ、どうした?」
「城壁の外で、不審な動きがあるって……。アゼルが気づいたの。」
俺はすぐに剣を取り、セリスと共に城壁へ向かった。
そして、そこで目にしたのは——
「なんだ、あれは……!」
闇夜の中、黒い装束の者たちが何かを企んでいた。その中心にいたのは——
「……ルーク?」
ルークはゆっくりとこちらを振り返り、不敵な笑みを浮かべた。
「カイ、セリス……。俺はお前たちを試すことにした。俺がこの国の未来を決める。」
新たな脅威は、すぐそばにあった——。




