真実の解放、王国の戦い
封印の間の奥から広がる不気味な気配に、俺は反射的に剣を構えた。セリスも緊張した面持ちで魔力を高める。
「カイ……来るわよ……!」
石碑の言葉を解読した瞬間、何かが目覚めたのは間違いなかった。しかし、暗闇の奥から現れたのは、俺たちが予想していたものとは違っていた。
「ようやくここまで辿り着いたか……」
低く響く声とともに、フードを被った男が姿を現した。鋭い目をした初老の男——しかし、敵意は感じられない。
「誰だ、お前……?」
「私はアゼル。この国の本当の歴史を知る者の一人だ。」
その言葉に俺たちは顔を見合わせた。敵かと思ったが、どうやら違うらしい。
アゼルは静かに語り始めた。
「お前たちはすでに気づいているだろう。この国に根付いた『痛みこそが愛』という文化が、呪いによるものだということに。」
「やはり……そうなのか。」
俺が頷くと、アゼルはさらに衝撃的な事実を告げた。
「しかし、その呪いは何百年も前にすでに解かれている。」
「なに……!?」
セリスが驚きの声を上げる。
「では、今も続くこの文化は——?」
「王族と貴族たちの策略だ。呪いを口実に、民を支配し続けるために作り上げたものに過ぎない。」
俺は拳を握りしめた。すでに解かれた呪いを偽り続け、国民を洗脳し続けてきたというのか。
「特に王国の貴族たちは、自分たちの権力を維持するために『痛みこそ愛』という価値観を崩させまいとしている。そして——お前の父である国王も同じだ、セリス。」
「……父が……?」
セリスの表情がこわばる。
アゼルは一瞬遠くを見つめ、低い声で語り始めた。
「私はかつて、王国の宮廷魔導士だった。」
「えっ……?」
「私は、国王の側近として仕えていた。しかし、真実を知りすぎたがゆえに追放されたのだ。」
アゼルの声には苦渋がにじんでいた。
「当時、私はこの国の文化に疑問を抱き、呪いの本当の由来を調べ始めた。すると、王族たちが呪いを解く方法を知っていながら、国民に偽りを植え付け続けていることに気づいたのだ。」
「それで……?」
「私は王に直接問いただした。だが、結果は……私の追放だった。私を助けようとした仲間たちは次々と処刑され、私は命からがら逃げ延びた。」
アゼルは拳を握りしめた。
「だが、私にはまだやるべきことがある。この嘘にまみれた支配を終わらせることだ。」
俺たちは息をのんだ。アゼルの言葉は、俺たちの決意をさらに強くした。
「お前たちが動き始めたことも、すでに王は察知しているだろう。」
「……じゃあ、俺たちはもう……」
「狙われている、ということだ。」
俺は大きく息を吸い込んだ。戦うべき敵が、明確になった。
「どうすれば、この偽りの支配を終わらせられる?」
「王国の中枢にある“誓約の書”を破壊することだ。それが、王族と貴族の権力の象徴であり、この嘘の文化を正当化する根拠となっている。」
「誓約の書……?」
「それが破壊されれば、国民も真実を知ることができる。だが、それを守っているのは——」
「国王……か。」
アゼルは頷いた。
俺たちは決戦に備え、アゼルの協力のもと、作戦を立てることになった。
「正面突破は不可能だ。王城には精鋭の騎士団がいる。」
「ならば、内部から動くしかないな。」
「その通りだ。」
アゼルは、王城の内部構造を知る数少ない人物だった。彼の案内で、俺たちは“誓約の書”が安置されている場所へと向かうことになる。
「カイ……本当にやるの?」
セリスが俺を見つめる。迷いの色が浮かんでいた。
「セリス、お前はどうしたい?」
「……私は……本当の愛が何なのかを知りたい。」
俺は頷いた。
「なら、決まりだな。」
こうして、俺たちは王国の偽りを暴き、自由を取り戻すための戦いに向かうこととなった——。