陰謀と裏切り、王国の秘密
愛のカーニバルが終わった夜、俺は城の書庫で一人、膨大な資料を漁っていた。
「……この国の歴史を知ることができれば、何か手がかりがあるはずだ」
セリスの求愛がエスカレートする一方で、「痛みで愛を証明する」という文化を変える方法を探していた俺は、王国の歴史に関する文献を調べることにした。城の書庫には、過去の記録が大量に保管されていたが、ほとんどが表向きの歴史であり、文化の核心に迫るような記録は見当たらなかった。
そんな中、書庫の奥の棚に埃を被った一冊の古文書が目に留まった。
「……なにこれ?」
革張りの表紙には、見慣れぬ紋章が刻まれている。その紋章は、セリスがよく身につけている王家の紋章とは微妙に異なっていた。慎重に開くと、中には王国の創設当初に関する記録が記されていた。しかし、読み進めるにつれ、驚愕の事実が明らかになっていった。
この国に根付く「拷問こそが愛」という文化には、恐ろしい秘密が隠されていたのだ。
「……これは、どういうことだ?」
記録によると、セリスの先祖は、とある呪いをかけられていた——。
「愛する者に痛みを与えなければ、悲劇が起こる……?」
最初は信じがたかった。しかし、この国の異常な文化が生まれた背景を考えれば、それを正当化する何かがあったのだろう。俺はさらにページをめくった。
古文書によれば、数百年前、王国は敵国との戦争に敗北し、和平の条件として王族に呪いがかけられたという。その呪いは、「愛する者に痛みを与えなければ、呪われた王家は衰退し、国も滅びる」というものだった。
「だから、この国では『痛みこそ愛』と信じられるようになったのか……」
呪いの存在を公にすることは許されず、代々の王族は「痛みこそが愛の証」とすることで国を守る道を選んだ。さらに調べていくと、この呪いを利用して王族を操ろうとする勢力の存在が明らかになった。
「……つまり、セリスは利用されている?」
王国の貴族たちの中には、呪いを逆手に取り、セリスを傀儡として操ろうとする者たちがいたのだ。彼らは「呪いを維持することで王族を支配できる」と考え、あえて文化を変えさせないよう画策していた。
さらに、貴族の一部が密かにセリスの婚姻を画策しているという記録も見つかった。「王族が直接血を継ぐことで呪いを抑えられる」との迷信があり、セリスを政略結婚の道具にしようとしているのだ。
「……これはまずいな。」
もし彼らの企みが成功すれば、セリスは一生「痛みの愛」を強要され続けることになる。俺は急いで書庫を後にした。
その夜、俺はセリスに真相を伝えようとした。しかし——
「……カイ、それは本当なの?」
「この文書を見てくれ。俺が調べた限り、間違いない。」
セリスの手が震える。彼女は、自分の愛の形が歪められた結果だったことを知り、動揺を隠せなかった。
「でも……もし痛みを与えないと、本当に災厄が訪れるのなら?」
「そんなの、確かめてみないと分からないだろ?」
俺はセリスの肩をつかみ、力強く言った。
「呪いなんかに支配されるな! 俺たちで、この呪いを解く方法を探そう!」
セリスはしばらく沈黙した後、ゆっくりと頷いた。
「……分かった。カイと一緒に、この呪いの真実を突き止めるわ!」
しかし、俺たちの動きを察知したのか、翌日、王国の貴族の一人がセリスに「国の安定のため、速やかに婚姻を進めるべきだ」と提案してきた。セリスが断ると、彼は意味深な笑みを浮かべた。
「……ならば、王国の秩序を脅かす者には相応の処罰を」
このままでは、俺たちの計画が阻止される可能性がある。
俺たちは城の地下にある封印の間へ向かった。そこには、代々の王族だけが入ることを許された禁忌の祭壇があった。
「ここに、何かヒントがあるはず……!」
俺たちは慎重に調査を進めた。そして、ついに見つけたのは、王国創設期に記された石碑だった。
「愛とは、心を通わせること。痛みではなく、支え合うこと——?」
それは、現在の文化とは真逆の言葉だった。
「つまり……本来の愛の形は、痛みではなく、支え合うものだったんだ!」
その瞬間、祭壇の奥から不気味な気配が広がる。嫌な予感がした。




