新たな王国の形
城の広間に静寂が満ちていた。セリスは玉座に座る国王と向き合い、カイはその横に控えていた。
「……さて、父上。」
セリスは静かに言葉を発した。国王は深いため息をつきながら、ゆっくりと娘を見つめる。
「セリス、お前は本当に変わったな。」
「ええ、父上のおかげで。」
「お、おかげ……?」国王は眉をひそめた。
「愛の証が拷問なんておかしいって、改めて思いましたから。」
「む……むぅ……確かに。」
横でカイがこっそり「気づくの遅いよな」と小声で呟いたが、セリスは聞こえなかったふりをした。
「それで、セリス……お前はどうしたいのだ?」
国王の問いかけに、セリスは一歩前に進み出る。
「私は、愛を痛みではなく、喜びで表現できる国にしたい。」
「ほう……?」
「例えば、料理やダンス、歌、それから……」
セリスは一瞬間を置き、カイの方をちらりと見た。
「ハグとか?」
「ハ、ハグ……?」国王は顔をしかめた。
「ええ、ハグです。」
カイはすかさず説明を付け加えた。「この国の人たち、基本的にスキンシップ不足ですよね。こう、愛を表すのにもっと穏やかな手段を……」
国王は腕を組み、深く考え込んだ。
「……なるほど。確かに、私も今まで誰かを抱きしめたことはないな。」
「じゃあ、まず試しにカイとハグしてみましょう!」
「な、なぜそうなる!?」カイが慌てたが、セリスはすでに国王の腕を引いていた。
「大丈夫です、愛の証です!」
国王は戸惑いながらも、ゆっくりとカイに向き合い、ぎこちなく腕を広げた。
「う、うむ……こうか?」
「お、お手柔らかに……!」
カイはビクビクしながらも、国王の腕の中に収まる。だが、次の瞬間——
「ぐ、ぐおぉぉ……! 思ったより力が強い!」
「む、むぅ……! ハグというのは、こう……がっしりと抱きしめるものなのか!?」
「ちょっ……息が……! 苦しいっす、陛下!」
周囲の騎士たちは必死に笑いをこらえていたが、数名は肩を震わせている。セリスは腕を組みながら満足げに頷いた。
「うん、なかなか良い感じですね!」
「いや、良い感じじゃない!! 離して! 本当に息できない!!」
「む、これは案外難しいな……」
国王はしばらく腕を緩めることを忘れていたが、カイが限界に達しそうな頃、ようやく解放された。
「ぜぇ、ぜぇ……!」カイは膝に手をつきながら荒い息を整える。
「ふむ、愛の証としてのハグ……案外悪くないかもしれんな。」国王は腕を組みながら納得した様子だった。
「でしょ?」セリスは得意げに笑った。
国王がカイにハグを実践したことで、少しずつ城内の空気も変わり始めた。騎士たちも「じゃあ自分たちも試しに……」と、なんとなくハグを取り入れ始めていた。
「いや、だからって、そんなに頻繁にやらなくていいからな!?」カイは次々とハグを求める騎士たちから逃げ回っていた。
「カイ、頑張ってください!」セリスは笑顔で応援した。
「いや、お前が仕掛けたんだろ!!」
こうして、王国は新たな時代へと進もうとしていた——。