歪んだ愛の証
王城の地下、暗く湿った石造りの部屋に、カイとセリスは拘束されていた。
目の前には、ルークが椅子に腰掛け、薄暗い蝋燭の灯りに照らされながら、楽しげに足を組んでいる。
「……信じられないよ、ルーク。」
セリスが静かに呟いた。
「なぜこんなことをするの?」
ルークはゆっくりと立ち上がると、セリスの方へと歩み寄った。
「セリス、君は気づいていないのか? 誓約の書が消えたとはいえ、国の伝統はまだ生きている。人々の心に根付いた価値観は、そんなに簡単に変えられない。」
「だからって、こんなこと……!」
セリスが強く睨みつけるが、ルークは微笑むばかりだった。
「カイ、お前も分かっているだろう?」
ルークはカイに視線を向けた。
「俺はお前を認めていたんだ。強さも、知恵も、お前はセリスに相応しい相手かもしれないと思ったこともあった。でも……お前は間違った道を進もうとしている。」
「間違った道?」
「そうだ。愛とは何か、お前は本当に理解しているのか?」
ルークの目が狂気じみた光を宿す。
「愛とは、試練だ。痛みを乗り越えた先にあるものこそ、本物の愛だろう?」
カイは鼻で笑った。
「はっ……冗談じゃない。お前、まだそんなことを言ってるのか?」
「冗談なんかじゃないさ。むしろ、証明しようじゃないか。」
ルークは手を叩いた。すると、部屋の奥から拷問器具を持った兵士たちが現れた。
「さて、セリス。君に選択を与えよう。」
ルークはセリスの頬を指でなぞる。
「俺の愛を受け入れるか、それとも……カイの前で、本当の愛の試練を受けるか?」
セリスは歯を食いしばった。
「よし、まずは軽いところからいこうか。」
ルークはにやりと笑い、指を鳴らすと、兵士たちが奇妙な道具を持ってきた。
「さあ、セリス。まずはこの“くすぐりの刑”からだ。」
「え?」
兵士たちは大きな羽を取り出し、セリスの脇腹をくすぐり始めた。
「ちょっ、やめ、やめなさい! ひゃ、ひゃはははっ!!」
セリスは必死に笑いをこらえようとするが、無理だった。
「くっ……はははっ……ルーク、これは一体何のつもり!?」
「愛の試練さ。痛みだけが愛ではない、苦しみには色々な形があるんだ。」
「それは分かるけど、くすぐりは違うでしょう!?」
「よし、次の段階に移ろうか。」
ルークは手を叩いた。今度は兵士たちが大量の激辛ソースを持ってくる。
「セリス、このスープを飲んでもらおう。」
「……まさか。」
「そう、これは“超激辛愛のスープ”だ。これを飲み干せば、君の愛は証明される。」
「ちょっと待って、それ普通に辛いだけじゃないの!?」
「愛は試練だと言っただろう?」
「関係ないわよ!」
だが、ルークは容赦なくスプーンを差し出した。
「さあ、どうする? 愛を証明するために飲むか?」
セリスはため息をつくと、意を決してスープをひと口すする。
「……っっっ!!!???」
彼女の顔が真っ赤になり、涙が溢れた。
「か、辛い!! これ、舌が燃える!!!」
「愛とは、試練だからな。」
「違うわよ!!!」
カイは目を閉じ、深く息を吐いた。
「……なあ、ルーク。俺もそろそろ我慢の限界なんだけど。」
「何だ?」
「お前、本当にバカだな。」
カイは椅子を蹴飛ばし、立ち上がる。
「え?」
ルークが驚く間もなく、カイは素早くセリスの手枷を外し、剣を奪った。
「セリス、大丈夫か?」
「ちょっと……まだ舌がヒリヒリする……!」
「よし、じゃあさっさと脱出しよう。」
「待て!!!」
ルークは剣を抜いた。
「お前たちを逃がすわけにはいかない!」
カイとルークの剣が激しくぶつかり合った。
火花が散り、部屋中に鋭い金属音が響く。
「カイ、お前にセリスを渡すわけにはいかない!」
「俺はセリスの持ち物じゃない!」
カイは怒鳴り、ルークの剣を弾く。
その瞬間、セリスがルークの背後に回り、彼のマントを思い切り引っ張った。
「うおっ!?」
ルークはバランスを崩し、カイの拳が彼の頬に炸裂する。
「ぐはっ……!」
倒れ込んだルークは、床に手をつきながら悔しげに顔を上げた。
「くそっ……これで終わりじゃないからな……!」
だが、カイは静かに剣を収めた。
「終わりだよ、ルーク。お前はもう、愛の本質を見失っている。」
ルークの表情が歪む。
こうして、新たな戦いの幕が上がるのだった——。