05 正義を名乗る新聞部員少女01
本日5話目の投稿です。
次は、明日の7:00過ぎに。
五月の終わり。
月末、昇降口の掲示板には学校新聞が貼り出される。
たまに登下校の生徒たちが足を止めて読むくらいには人気なのだが。
『我が校のアイドル杜若あやめ氏、Dと判明!』
いわゆるゴシップ記事が多い。
記事の下衆さにほんの少しの嫌悪を覚えつつ、教室へ向かう。
と、通りかかった隣のクラスが騒がしい。
「あやめ姫のサイズを暴くとは!」
「さすが敏腕記者!」
「つ、次は杜若さんのお部屋の中を……」
阿呆な男子たちに囲まれてニンマリしているのは、大人しそうなメガネの女子だ。
あの女子が新聞部員か。きっとあの昼休みの「うっかりD発言」を誰かから仕入れたのだろう。
一見、小動物みたいな可愛いらしい雰囲気で、高校内のゴシップをスッパ抜く。
──なんだかなぁ。
他人に興味のない俺には、わからない世界だ。
「ダメですよー、新聞部は真実を暴く正義の味方なのですから!」
「そこをなんとか。アイドルの真実を、ってことで!」
……なるほど。
新聞部は正義の味方として、杜若のサイズを世に晒した、と。
どの辺が正義なのだろう。
グラビアアイドルのようにサイズを武器としているなら、まだ理解できる。
しかし杜若は高校生。それで報酬を得ているワケではない。
ほんと、何がしたいのやら。
──杜若は、大丈夫だろうか。
自分の教室に入ると、先に登校しているはずの杜若の姿は、なかった。
暗い顔の杜若が教室に来たのは、一時限が終わった休み時間だった。
すぐに取り巻き、もとい同じトップヒエラルキーの女子たちが、杜若を囲んで心配を始める。
いい友人を持ったな。
男子たちは、杜若たちのグループを遠巻きに眺めて、なんかニヤニヤしている。
異性に多感な時期、の許容範囲で済ませられる程度に留めてほしいものだ。
そんなこんなで、杜若本人の望まない学校新聞で、その評判は上がってしまったワケだ。
それが新たな事件を呼び込むことになろうとは、この時は予想していなかった。
学校新聞が掲示されて一週間。
幸か不幸か、俺たちが通う高校にはプールが無い。
つまり水泳の授業がないワケで、杜若の話題も次の学校新聞が出る次の月末までだ、と高を括っていた。
五月末に貼り出された新聞は、杜若の件が不適切な記事と判断され、すでに掲示板には無い。
だが、再び学校新聞が掲示された。
『号外! 我が校のアイドル杜若あやめの行きつけのお店公開!』
……もう完全なゴシップ紙だな。
俺は教室に向かう足を翻し、職員室へ向かった。
たしか新聞部の顧問は、国語の田端先生だ。
美人の女性教師なのだが、なぜか生徒からの人気は低いらしい。
「ああ、新聞部は去年廃部になったのだよ。部員不足でね」
新聞部の顧問、だった田端先生が語ったのは、意外な事実だった。
「あの子、新聞部の復活を望んでいるみたいでね。勝手に新聞を作って貼っていたんだ。しかし、やりすぎだな」
「そのやりすぎな新聞が、新しく掲示板に貼られてますが」
「え、本当か。確認する、着いてきてくれ」
田端先生と共に昇降口の掲示板に行くと、男子たちが食い入るように新聞を見ていた。
「ちょっと退いてくれ」
男子生徒たちを掻き分けて、田端先生は学校新聞の内容を確認し始める。
しばらく読んでいた田端先生は、その新聞を引っぺがして職員室へと戻って行く。
田端先生の背中を見送った数分後、隣のクラスの赤堀という生徒が、校内放送で職員室に呼び出された。
放課後。
帰り支度をしている俺の席に、メガネの女子生徒がやって来た。
こいつは……学校新聞を貼った隣のクラスの女子だ。
「あんた、ちょっと来て」
「断る」
「は? あんたに断る権利があると思ってるの?」
「知らない人には着いて行くな、と教育されてるんでね」
「とぼけないで。あんたのせいでしょ。聞いたんだから」
もしかしてこの女子、学校新聞の件とは言いたくないのか。
そうなると、意地悪したくなるよな。
「あー、もしかしたら学校新聞の件か?」
わざと大きめの声で言ってやる。
目の前のメガネ女子は固まって、視界の隅の杜若はこちらに視線を向けた。
ほんと、なんで杜若本人がいる場所で俺を呼び出すかなぁ。悪手にも程がある。
「……そうよ」
メガネ女子は小さな声で同意した。
「なら、国語の田端先生が担当だろ。そっちへ行ってくれ」
それだけ告げて、俺は教室を出た。
お付き合い、ありがとうございます。
これで本日の投稿は終わりです。
次は明日、朝7:00過ぎを予定してます。