最終話 世界一可愛い俺の大好きな幼馴染の杜若さんへ
お付き合いいただきありがとうございます。
今回が最終話となります。
文化祭の興奮冷めやらぬままに挑んだ定期テストは、散々な結果だった。
おかげで今、こうしてファミレスにて勉強会の真っ最中だ。
「幸希くん、ここ違ってるよ」
「田中、ここも違うよ」
「軍師どのは、勉強が弱点でありんすか……」
先生役は、世界一可愛い幼馴染である杜若あやめと、テニス部の王子さまこと加瀬くんだ。
生徒は、元キモいマンズの青木、星野、石田の三人と、不祥な俺、田中幸希である。
だが青木も星野も石田もトップクラスの成績なので、実質俺だけが集中砲火を浴びている。
「す、すこし休憩しようぜ……」
「仕方ないなぁ、少しだけだぞぉ」
杜若先生のお許しが出たことで、俺はドリンクバーにダッシュ。
待ってろよ、メロンソーダ。
シュワシュワのメロンソーダを手にテーブルへ戻ると、俺抜きで談笑が始まっていた。
咄嗟に陰に隠れた俺は、ピーピングを開始。
「しかし驚いたでござるよ。まさか杜若どのと田中どのが、アチチな関係とは」
「そんなんじゃないよ、まだね」
アチチな関係ってなんだよ。
つか、エチチな関係じゃなくてよかった。
「しかし加瀬どのはともかく、我ら三人も同席してよかったのか」
「そこでありんすよ。お邪魔では……」
「んー、幸希くんと二人きりだと、勉強が進まなくて」
主におまえのスキンシップのせいだぞ、杜若。
「加瀬どのは、我らと一緒でも良いのか……?」
ござるの青木の言い分は、大いにわかる。
俺だって、加瀬や杜若と同じファミレスのテーブルを囲んで良いのか、と考えるのだ。
しかし加瀬は、青木の危惧を秒速で笑い飛ばすのだ。
「全然、まったく気にしてないけど。何かあるのかい」
「自慢ではないが、我ら三人はキモいマンズ。そんな輩とファミレスで同席していては、クラスで色々言われるのでは」
「大丈夫。キモいマンズなんて名前をつけた本人は、もうクラスにいないからね」
うわ。キモいマンズの命名って、取り巻き一号こと進藤アコだったのか。
ひどいやつだぜ、まったく。
「ところで、いつまで盗み聞きを続けるつもりだい、田中」
「あ、気づいてた?」
「気づくに決まってるって」
体の半分しか隠れない物陰から出て、テーブルに着く。
「そうだ、次の勉強会に、オレの友だちも呼んでいいかな」
「え、サッカー部の、小机くんでありんすか?」
「ああ。あいつサッカーばっかりで、いつも赤点ギリギリなんだよ」
加瀬くんの提案に、キモいマンズ三人は顔を見合わせて考えている。
「あいつなら大丈夫だ。見た目によらず、気配り名人だぞ」
助け舟を出すと、三人は頷く。
「田中どのが言うなら、大丈夫でござるな」
「うむ。軍師どのの洞察力は、田端先生のお墨付きでありんす」
いつのまにか俺は、キモいマンズの全幅の信頼を得ていたようである。
いや、もうキモいマンズなどと言えないな。
個々の能力の高さを知って、気さくな性格も知った。
それに、こんな俺に笑顔を向けてくれる。
「うん、決まり。じゃあ定期テスト前は、みんなで勉強会ね!」
……やなイベントが定例化してしまったな。
昼間の陽気を忘れたように、冷たい風が吹いた。
秋の季節は、すぐに去ってしまう。
この並木道の銀杏の絨毯も、あと僅かの風景だ。
少し先を歩く杜若は、今日は珍しくポニーテールを揺らしている。
「ねえ、幸希くん」
「ん?」
長いスカートをくるりと風に舞わせた杜若は、俺に向かい合って、そのまま後ろ向きに歩く。
「幼馴染協定を壊したこと、怒ってる?」
「そりゃ、その時は、な」
おい、後ろ歩きは危ないぞ。
小学生の頃に何度も転んだのを忘れたか。
そんな心配も伝わらないのか、杜若は後ろ歩きのままだ。
「今は?」
「……ちょっとだけ感謝してる」
杜若の足が、止まる。
ふう。ようやく後ろ歩きの危険性を理解したか。
「どうしたの、今日の幸希くん、変だよ。なんか素直だし」
変、か。
いつもの俺と違うのは、杜若の推察通りだ。
素直というのも当たっている。
「俺は、杜若に謝らないといけない」
「え」
「最優等生の件、だ」
「その件なら、もう良いんだよ。お母さんのことも、吹っ切ることに決めたし」
「そうじゃない。イベントの最優等生の件だよ」
俺は、杜若に最優等生になって欲しかった。
称号がないのなら、作ってしまえばいい。そう思っていた。
でもそれは、
「俺一人のエゴだった」
杜若の心の傷は、嘘つきな俺なんかでは癒せない。
それでも杜若にお節介をしたいならば。
すべて正直に言って、素直に行動する。
それが、長年嘘をつき、ごまかし、のらりくらりと生きてきた俺の、現在可能な最大限の誠意だ。
したがって杜若あやめと向き合うには、過去の俺の歪んだ行動についての謝罪から始める必要がある。
「俺のイベントの最優等生と、杜若が目標にしていた最優等生は、違うものだった」
俺は、杜若が称号を求めていると思っていた。
だが本当に杜若が求めていたものは「絆」だ。
最優等生になることで、切れかけた母親との絆を、繋ぎ止めたかった。
しかしそこに至る前に杜若の母親は、自分の娘に最悪な記憶を残して、身勝手に去った。
「だから……あうっ」
言葉を続けようとしたら、杜若にデコピンされた。
「なーに難しく考えてるんだか」
「最優等生の称号がウソだったのは、すごく残念だったけど」
「ずっと追い続けてきたその幻の称号を、私の大好きな人が、私のために作ってくれようとしたんだよ」
「そんなの、嬉しいしかないじゃん」
「けどね。もう最優等生は、もういいの。目標、変えたから」
「私は、あの高校でいちばん、充実した生徒になるんだ」
「そのためには、幸希くん。キミの協力が不可欠なんだよ」
「幸希くん。私と、付き合ってくれる?」
「いやだ」
「だーめかぁ、幸希くんの好きなポニーテールで気合い入れたんだけどなー」
「付き合うだけなんて、そんな不確定要素ばかりの関係、いやだ」
「え」
「俺は、杜若あやめとの未来が、欲しい」
だから。
「世界一可愛い、俺の大好きな幼馴染さん、婚約してください」
「……すっ飛ばしたねー。付き合わずに、いきなり婚約?」
「ダメ、か?」
「私、欲張りなんだよね。だから」
「付き合うのも、婚約も、その先の二人の生活も、ぜんぶほしい。幸希くんと一緒に、楽しんだり、悩んだり、たまに泣いたり」
「幸希くんのお給料が少ないって嘆いたり、そのぶん私が頑張ったり」
将来の俺、そんなに給料安いの……?
なんでそんなに悲観的なのん?
「が、頑張るって。おまえには苦労させないように……」
「わかってない。わかってないなぁ〜」
「私は、一緒に苦労したいの。幸希くんと、一緒に。だから」
「一緒に、果てしなく生きていこ!」
了
お読みくださいまして、本当にありがとうございました。
最後のお願いになります。
ポイントください。゜(゜´Д`゜)゜。
それと、近々新しいラブコメを投稿するつもりです。
音楽を交えたラブコメなので、ぜひ。




