ジョナサン殿下の暴走
庭園で和やかにジョセフと話していたリリア。
そんな平和を乱す厄介者がやってきた。
「はぁ…はぁ…こんな所にいたのか、リリア!探し回ったぞ!」
と国内とは大袈裟だが、少なくとも王城内に響き渡る声なのではないか?くらいに大声で叫んでいる。
走り回ったのか、息切れもしているようだ。
「ジョナサン殿下、わざわざお探し下さりありがとうございます。ですが何用でしょうか?」
あくまで一生懸命探し回ったので、労いの言葉を述べるまでである。
寧ろ誰も婚約のことまでは頼んでいない。
いきなり一目惚れしたから、婚約して欲しいなんて迷惑極まりこの上ない。
「あぁ…リリアは美しいな…。私の気持ちは変わらん!婚約して欲しい。」
とわざわざ跪いて、婚約指輪を差し出した。
随分と用意周到だ。
直接会ってないだけで、遠目から見てたのか?
と疑いたくなるくらい。
そこまでされたら、断りたくても第1王子のメンツで断れない。
「酷い方ね。断れないのをご存知でこのような事を…。」
「私は欲しいものを、何が何でも手に入れるたちでね。残念ながら逃れられないのさ。」
「なら諦めてくれるのを待つのみですわね。一旦殿下のメンツのためにも、受け取っておきます。」
リリアは婚約を承諾した。
半ば職権乱用の状態だが。
リリアはフェリカ王国にきて半年、まだ8歳のことであった。
「お兄様、良かったね!婚約おめでとう。」
とジョンヨン殿下がこちらにやってきた。
いつから見ていたのか、顔が全然良さそうな感じではない。
「リリアも大変だね。身勝手なお兄様に好かれちゃって…。」
「ジョンヨン殿下、いつもより刺々しいですが、何かありましたか?」
明らかにいつもと様子が違うので、リリアは心配になって尋ねる。
何にもないよ。
微笑むがその笑顔が氷のようだ。
「お兄様…。」
ジョンヨンはジョナサンに近づいて耳打ちをする。
「リリアに求婚するのは、僕の方が先だったのに。その為に、国王陛下からも承諾を得たというのに、計画がパァですよ。お兄様は僕の大切なものをよく奪っていきますね。この恨みは忘れません。」
とジョナサンに笑顔で話す。
やはり氷のように冷たそうだ。
ジョナサンは気が付かなかいみたいだが。
「おう!いつも悪いな…でもリリアを見たら求婚しない方があり得ないだろ?それだけ一目惚れしたんだよ。お前は私と違って、女性にも物腰が柔らかいから、すぐに他の女性が見つかるよ。王立学院に入学したら、貴族のご令嬢で素晴らしい成績の子もいるだろうし…。」
励ましが逆効果というのを知らないようだ。
ますますジョンヨンは、ジョナサンに対して嫌悪感を抱く。
「お兄様…リリア以上の女性はいません。お兄様こそ、この国のしきたりを勉強された方がよろしいですよ。婚約者とはお披露目会まで一切会うことを禁ずる。貴方にこれが出来ますか?私は出来ます。他の女性にうつつを抜かしたら許しませんよ。」
忠告はしておきましたから。
そう言ってジョンヨンは、リリアの元に戻った。
「ジョンヨン?凄い剣幕だったけど、どこか調子悪いの?」
リリアはジョンヨンの顔を心配して覗き込む。
大丈夫だよ。
ただそれだけ言って微笑んだ。
いつもと調子が違うだけに、リリアもますます心配になる。
「そうだ!明日2人でお茶会しましょうよ!」
「お茶会?丁度明日はその日か…。いつもの時間と場所でいいかな?」
「ええ。いつもの時間と場所でね!私も王妃教育で忙しくなるから、同じ王城にいても中々会えなくなるだろうし…。もっと自由な時間が欲しかったなぁ。まだ半年しか経ってないし。」
「そうだよね。明日は2人の励まし会と称して、お互いの好きなお菓子を作ってもらおう!」
「そうね!楽しみに待っていましょう。」
2人でキャッキャしている横目で、ジョナサンは愕然とした。
これじゃどちらが婚約者なのかわからない。
ここまで仲良くなっているとは…。
「探しましたよ。国王陛下がお呼びです。」
「あぁ、今行く。」
もう少しその場にいたかったが、国王陛下に呼ばれたので仕方なく、その場を静かにジョナサンは去っていった。