王城での暮らし
国王陛下がリリアの後継人になってから、数ヶ月が経った。
フェリカ王国には、学問の水準が高い学校がいくつもあるらしく、リリアは学院に入る事を考えて過ごしていた。
「リリア!ここにいたんだね。」
「ジョンヨン…ここは癒しの場所だから。」
リリアが癒しの場所というのは、庭園や温室のことである。
お花には人を癒す効果がある。
アロマセラピーというものだろうか。
「庭師もリリアが入り浸ってお世話をしているから、とても助かっているみたいだよ。お花を育てるのも色々と多いからって。」
「助けとなっているのなら、安心だわ。私は祖父の孫とはいえ、居候の身だから。」
元の国に戻れないなら、まだ子どものリリアは身寄りを探す他ない。
それがたまたま王城というわけで…。
早く自立なり、婚約者を見つけてそこで花嫁修行するなり、しないといけない。
「私は一応王族の身分になったから、婚約者も自分で決められないのよね…。」
「そうだね、僕達は自分の意思で結婚相手を決めることはできないけれど、学問なら決める事ができるよ。結婚するまで好きに学んでみるといいよ。」
とジョンヨンはふんわりと微笑んだ。
本当に癒しの笑顔だ。
温室のお花達も霞んで見える。
「そういえば、ジョンヨンはどこの学院に入るか決めたの?」
「うーん、王立学院かなと思っているよ。この国で最難関の学校だからね。その為に優秀な家庭教師が僕に付いてるんだけど。」
「私も同じところにしようかな?ジョンヨンがいたら心強いし!」
何も知らない場所で心細いし、ジョンヨンがいれば安心!とリリアは言う。
ジョンヨンは国王陛下に掛け合ってみる!
とすぐその場を後にした。
「それにしても、ここの温室は素敵な所だわ。珍しいお花達も沢山あるし、生き生きとしているみたい!」
リリアは温室に咲いているお花を眺めながら、お水を与える。
そこに庭師のジャディさんがやってきた。
「リリア様にそう仰って下さる事は大変光栄でございます。いつもお水も与えて下さり、ありがとうございます!」
「ジャディさん、こちらこそありがとうございます。息が詰まる生活のオアシスなのです。」
「お話は、ジョンヨン殿下からお伺いしております。まさか国王陛下のおじ様のお孫さんだったとは…そして別の世界からきたという事も概ね承知しております。いつでもここに遊びにいらっしゃって下さい。」
とジャディさん(王宮庭師60歳おじいさん)は優しく微笑んだ。
リリアは祖父を亡くしたばかりなので、ジャディさんを余計に重ねて見てしまう。
ジョンヨンもよくリリアを訪ねてくるので、気にかけているようだ。
リリアは毎日のように温室に通い、ジャディさんやメイドさん達やジョンヨン殿下とお花を眺めながら、アフタヌーンティーを楽しむ毎日になった。
そんなある日の事。
国王陛下から身内のみのリリアの歓迎パーティーを開催するという旨の招待状が届いた。
リリアがフェリカ王国にきてから、半年後のことだった。
「身内のみの歓迎パーティーかぁ…。どんな人達がいるのかしら。一応覚えておかないとね!」
と覚悟を決める様に、両頬を叩いた。
コンコン!
誰かがドアを叩いた。
「こんな遅くにすまないが、失礼するよ。」
とジョンヨンが訪ねてきた。
歓迎パーティーの事について話があるそうだ。
「わざわざありがとう。身内のみって書いてあるけど、どの範囲までなのかしら?」
「そうだなぁ…。国王陛下の兄弟やそのおじなどたくさんいるよ。そういえば、リリアのお祖父さんの兄弟も招待したそうだよ。向こうも驚いていたけど、弟の孫に会いたいからこちらにいらっしゃるそうだよ。」
「そうなの!?お祖父さんのお兄様方がいらっしゃるのね!昔の話でも聞いてみようかしら!」
とリリアは意気揚々に言った。
この世界じゃないと、会えない人達がいる。
それだけでも、フェリカ王国に飛ばされた価値はあると。
「パーティーのドレスは、僕から贈るよ。そしたら僕の好みのドレスになってしまうけど…。」
ドレスに困っていたので、正直ありがたい。
好みもよくわからないから、いつもお世話になっているジョンヨン殿下の趣味で構わない事を伝える。
「リリアに合うドレスを見繕うから、楽しみに待っててね!」
とジョンヨンは手をひらひらさせながら、嬉しそうにリリアの部屋を後にした。
「はぁ…ジョンヨンは本当に優しい男性よね。どうせなら結婚相手もジョンヨンみたいに優しい男性がいいなぁ…。」
とジョンヨンの背中を見つめながら、小さく呟いた。