表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満洲国異形録  作者: HasumiChouji
第一部:来たるべき種族─The Coming Race─
6/7

第一章:大連(六)

 群集が道を空けてくれたおかげで、何とか山口達は屋台街を奥に進んでいた。

「もう少し行って、曲って、それから少し行った所に、小さい病院が有ります。中国人の医者ですが、腕は中の上ぐらいです」

 そう説明した古賀の横には、白人の男を「父」と呼ぶ協和服の東洋系の子供が居た。

「そう言や、あの男だか女だか判らんヤツは一体?」

 木村は、そう聞いた。

「ありゃ、梅村淳ちゅうヤツじゃ。女だてらに『満洲の阿片王』と言われとる里見(はじめ)の片腕にまで成った……荒事もお手のモンの……クソ野郎では有るが女傑と認めざるを得んヤツじゃ」

 山口は、そう答えた。

「満洲の阿片王⁉ 物騒な渾名のヤツですなぁ……」

「『主義者殺し』の甘粕正彦と並ぶ満洲国の裏の親分じゃ」

「ヤクザか何かですか?」

「そぎゃん甘か連中じゃなか……裏で関東軍とつるんどる。ヤツが()うとった『昭和通商』ちゅうのは、関東軍の特務機関の表向きの姿じゃ」

「川島芳子みたいなモンですか?」

「あれをもっとエゲツのうしたような……待て、何の音じゃ?」

 山口が音のする方を見ると、協和服の男が屋台の屋根の上を飛び移りながら走り、やがて、山口達を追い越すと止り、背負っていた背嚢から、弓と矢を取り出す。

「まずかぞ、そこの店に入れ‼」

 山口は、そう叫ぶと横の店を指差した。

 だが、次の瞬間、古賀の肩に矢が刺さった。

「えっ……あれっ……ああああ……痛ェっ‼ いたたたた……」

「おい……大丈夫か? ん?」

 その時、空中に湯気か煙のようなものが現われた。白人の男を「父」と呼んでいる子供と、屋根の上の男を繋ぐように。

 そして、その湯気の辺りだけ、微かに舞っていた粉雪が消えていた。

 やがて、屋根の上の男が手にしていた弓が煙を上げ燃え始めた。屋根の上の男は、一瞬、怪訝な表情をしたが、弓を捨て、今度は背嚢から山刀を取り出し、屋根から飛び降りた。

(おい)が行く。木村君と義一さんは、こん人と古賀さんば頼みます」

「わかった」

「わかりました」

 山口達を追って来た男は、背嚢を捨てると、山刀を抜いた。

 山口は、男の前に立つと、左半身(はんみ)となる。体重は右足にかけて、左足は、やや浮いている。右手は開いたまま、腰の高さに、左手は胸の高さに。

 それを見た相手の男は、少しづつ後ろに下っていく。だが、男の表情は奇妙なものだった。釣竿の当りを確認している熟練の釣り人のような、真剣ではあるが、他人の生命を奪おうとする者の表情としては、どこか違和感を感じさせるものだった。

 そして、男は駆け出した。山口に向かってではなく、近くに居た通行人に向かって。

 男は通行人を蹴り、その反動で山口の方に跳び、空中で、山刀による斬撃を加えるが、山口も、それを予期していたように紙一重で躱した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ