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短剣の俺VS長剣のゴシックドレス少女

「アタシが……悪霊王あくりょうおうだよ、聖霊王ちゃん」

 悠然と立つゴシックドレスの少女、悪霊王。彼女の両手には二本の長剣。 

「聖霊王ちゃん。アタシとキミがタイマンした100年前、最期にどんな言葉を交わしたか、覚えてる?」

「……お前が誰か、今日の今まで知らなかった」

「そっか、アタシを封印する為に記憶失くしちゃったんだね」

 ゴシック少女が、俺に切りかかる——。

 その刀剣による攻撃をプライド————短剣で受け止める。

「アタシは100年前のあの時、こう言ったんだよ。『悪霊は人間のネガティブな感情を食べないと、飢え死にしてしまう。だからお互い話し合って、食べる人間と食べない人間を決めて共生して行こう』って。そしたら聖霊王ちゃん、何て返したか覚えてる?」

「……」

「『俺達は元人間だ。人間を売るようなマネは出来ない』って、アタシに言ったんだよ? ヒドくない? せっかくアタシが譲歩して上げるって提案したのに……」

「……」

「元人間って言うなら、別に天界の霊に限らず、アタシ達悪霊だって、元人間なのにさ。人間だった頃、恨み辛みを持って死んだかどうかの違いしか無いってのにさ」

「……人間を自殺させないと、お前達悪霊は生きられないって事か?」

「そうだよ。だから、アタシはキミにこうも言って上げたの。『無差別殺人犯のような、悪い人間だけをアタシ達の食料にしてよ』って。君は、正義漢ヅラして、それすら許してくれなかったんだよ?」

「……」

「ねえ、記憶を失った今でも、本気でそう思ってる? 今、キミって人間だった頃の記憶しか無いんだよね? 人間だった頃、クラスに『こんなヤツ、死んじまえば良い』って思うくらいクズなヤツの一人や二人、居なかった? キミをイジメたヤツとか、居なかった? そういう連中をアタシらの食料にするって考えれば、霊達と悪霊達、共生出来ると思えて来ない?」

「……」

「100年前のキミは、良くも悪くも、1700年間も生きてしまい、人間の醜い部分を忘れてしまっていた。けれど今のキミは、17年分の記憶しか無い。人間の醜さを、よく知っている筈だ。クズ人間共だけだ、アタシらの餌になるのは。どう? 今一度、アタシとキミで、話し合いをしてみない?」

「俺……は……」

 確かに、「こんなヤツ死んだ方が良い」と思う人間なんて。学校にも、ニュースの中にも、山のように居た。俺は……どうすれば……。

『耳を塞ぎなさい! 聖霊王!』——叫ぶ短剣……プライド。

「プ、プライド……」

『奴の甘言に乗ってはダメ! この女は、悪霊共の王でありながら、自分の家来達の事なんて、ただの道具程度にしか考えていない!』

 刀のぶつかり合いの末、先に悪霊王の長剣の一本が折れて、柄だけとなった。

「あ~あ……つっかえねえ……」——柄を後ろにポイ捨てする悪霊王。

 そして「もう一本ちょうだい~!」と真上に向かって叫ぶと、新しい悪霊が地上に降り立った。その悪霊……褐色美女の首根っこを強く掴み、剣へと変える。

 ゴシックドレスの少女の真後ろでは、ヒト型へと姿を戻し、真っ二つとなった悪霊の死骸が痙攣している。

 プライドの言う通りのようだ。この女は、仲間の事を武器程度にしか思っていないらしい。

「なあ、悪霊王。お前にとって、悪い人間って……どんなヤツの事を言っているんだ?」

 剣と剣を交えながら、俺は彼女に問う。

「ん~~例えば……道端にタバコをポイ捨てするヤツでしょ~。後は~」

 片方の剣を投げ捨て、指折り数え始める。

「酒を飲むヤツ、クラスで調子こくヤツ、根暗なヤツ、ネアカなヤツ、友達ゼロ人なヤツ、友達100人なヤツ、空気読んでばかりなヤツ、空気読まないヤツ、他人を信じないヤツ、他人を信じてばかりなヤツ、自信過剰なヤツ、自信の無いヤツ…………つまり総合して言うと——」

 ——人間そのものかなぁ——?

 彼女はそう、結論付けた。  

 この少女にとって「悪い人間」とは……全ての人間……。人間の存在そのものが、悪。

「じゃあ、お前の提案を受け入れたら、人間全員死んじまうじゃねえか……」

「そこは、聖霊王であるキミがお気に召す人間だけは生かしてあげるよ!」

 ……ラストが、初めに言っていたな。

 この霊界では「霊力の高さが全て」だと。このゴシックの少女は、間違いなく最強レベルの霊力を持つ。

 だが、この世界が霊力……つまり、「腕っぷしが全て」の世界だからこそ、彼女からしたら、人間という霊的能力を一切持たない存在は、家畜のような存在なのだ。

 家畜は、喰い荒らせば数が減る。がしかし、繁殖させるのに手間のかかる程の存在でも無い。

 しかし人間は、家畜を決して自分達と対等な存在とは見ない。だからこそ悪霊王……彼女は、霊と人間を対等な存在とは、決して見ない。

 つい最近まで人間だった(つもりの)俺が、彼女の思考回路に追いつける筈も無いのだ。

 この悪霊王を野放しにしたら、間違いなく人間は全員喰われ、滅びる……。

「お前に、人間を喰わせるワケには行かない……」

「仕方ない、交渉決裂だねえ!」——互いの剣先が弾ける。

 敵と俺に、少しの間合いが出来る。

「ねえ聖霊王ちゃん。アタシの得物は、二本の長剣。ソレに対し、キミの得物は、一本の短剣。常識的に考えたら、聖霊王ちゃんの方が圧倒的に不利じゃない?」

「武器は、大きさと数が全てじゃないだろ?」

「そんな事言ってる余裕、あるかな?」

 悪霊王が、右手の剣を、投擲とうてき——槍のように俺に向かって、投げ捨てた。

 ボウガンの弾のように、俺の方へ飛んでくる剣。

 ソイツは、俺の頬をかすめた。

「イッテ……」——切れた頬を抑える。

「これだけじゃないよ。アタシの『剣の弾丸』は、山のようにある」

 いつの間にか、10体近く、おびただしい数の悪霊が、王の周りを囲っていた。

 敵には、武器に変えられる霊的存在が10体以上。反対に、俺の武器は、たった一つの短剣。

 状況は、圧倒的劣勢。

 

 ……いいや、一人だけいる。この状況をひっくり返す可能性を秘めた霊的存在が。


「なあ、プライド。お前は、『双剣になる聖霊』なんだよな?」

『そう私の魂が言っているわ。私は、貴方の「双剣」であると』

「何で双剣なのに、一本しか無いんだ?」

『私も初めての「武器化」だから、分からないわよ』

「もしかして……お前の兄ちゃんって、兄じゃなくて『双子』なんじゃないか?」

「……そうよ。彼は双子の兄。……何を考えているの?」

「試す価値はあるだろ?」

 俺はプライドの兄に駆け寄り——、

「なあ、アンタ。妹を守る為に一つ、俺に力を貸しちゃくれねえか?」

「俺がテメェに? お前、聖霊王だからって調子こいてんじゃねえぞ? 俺は態度のデケェヤツがだいきれーなんだ。スゲエ霊能力を持ってるからって、チヤホヤされやがって……」

「もし、アンタにも『凄い霊能力』があるって言ったら、どうする?」

「……俺に『霊能力』? 笑わせんじゃねえよ! あるワケねえだろ!」

「『他者の姿を武器に変える霊能力』が存在するなら、『強い武器に姿が変わる霊能力』が存在しても、おかしくは無いと思わないか?」

「……お前、本気か?」

「俺に触れろ……」

 プライドの兄へと、空いた左手を差し伸ばし——、

「プライド! 再度呪文を!」

『【我らの名はプライド! 聖霊王の『誇りの双剣そうけんなり』!!】』

 その言霊と共に、筋骨隆々の男は光に包まれ……姿を変え——、

 短剣となり、俺の左手に収まる。

「これで二本の剣VS二本の剣だぞ、悪霊王!」

「はぁ!? アタシの剣は、たった二本じゃねーし!」

 再度、悪霊達を剣に変え、投擲してくる。

 その槍のように飛んでくる剣を、俺の双剣が正面で真っ二つにした。

「何よその武器!?」

「霊的武器は大きさが重要じゃない。その内に秘めた霊力の多寡が重要なんだ。お前の10本以上ある長剣の霊力は、俺のたった二本の短剣の霊力に劣る」

「バカ言ってんじゃねーよ!」——ゴシックドレスの少女の、怒号。

 再度、投擲。

 俺は、向かってくる全ての刀一本一本を丁寧に弾いて、ゆっくり少女に歩み寄っていく。

「何で効かねーんだよぉ!?」——少女が青褪めていく。

「これで……終わりだ」——決着を付けようと、彼女の首に狙いを定めた……その時、

 空中に開いた、異次元に繋がる穴から、六体の悪霊が地上に降り立った。

 六体の悪霊——それは、六人の、黒い羽衣を纏った褐色の少女達。

「大丈夫ですか、お嬢様?」——悪霊王に頭を垂れる六人。

「おっせえよ! 何やってたんだよ!」

 ……何者だ、彼女らは? 人語を操っているぞ……? 

それに、あの黒い羽衣のデザイン……どこかで……。

「聖霊王様! こちらは片付きました!」——誰かが俺の名を呼んだ。

 振り向くと、六人の、白い羽衣を纏った少女らが、こちらに。

 六人の白い少女らと、六人の少女らが、互いの存在を感知する。

 似ている……彼女らの出で立ちが。服装が。

「プライド……あの六人は……?」

『あいつらは……「大罪の七悪霊」。私達「七聖霊」と、対を為す存在……』

 七悪霊……そんな奴らが居たのか……。

 敵と俺達は、互いに互いを見つめ合う。

 ——このままでは、全面戦争になるか——?

 始めに手を挙げたのは……ゴシックドレスの少女、悪霊王だった。

「ハーイ! おしまいおしまい! 今日の闘いは、これでしゅーりょー!」

「どういうつもりだよ。お前、戦争しにここに来たんじゃないのか?」

「今日はただの挨拶。それに、キミが記憶を失くしたのは知っていたから、100年前と違って交渉の余地があるんじゃないかって、少し期待もあったし……」

「……それで、ご期待には応えられたか……?」 

「……ざーんねん。殺し合い決定だね」

 彼女と、六人のしもべ達は、口を開いた異空間の穴の中へ、消えて去った。

 すぐに異空間の穴が、口を閉じる。


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