表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

彼女(プライド)の誇り。そして、ゴシックドレスのラスボス

「聖霊王様、昨日はとんだご無礼を働き、大変申し訳ございませんでした」

 翌日から、プライドは昨日と打って変わって、俺にかしこまるようになった。

「どうしたんだよ、昨日と随分様子が違うじゃないか」

「昨日あの後、とある事をきっかけに、『七聖霊』の一人としての自覚が産まれました。貴方様が私を抱きたいと言うならば、我が身、喜んで差し出します。私の喜びは、貴方様から寵愛を受ける事であると自覚致しました」

「へっ! やっと自分の立場を理解しやがったか! プライド!」——とヤンキー娘、ラース。

「聖霊王様の『我々を武器に変える異能』無くしては、悪霊王を討つ事は叶いません。我々あっての聖霊王様ではありません。聖霊王様あっての我々なのです」——とロリっ子ママ、ラスト。


 ……それから城の中で、やけにプライドは俺に迫るようになった。

 玉座で脚を組んでいれば「肩をお揉みしましょう、聖霊王様」。

 風呂に入ろうとすれば「お背中お流ししましょう、聖霊王様」。

 飯を食う時なんかは「私の作った料理からお食事下さい、聖霊王様」。

 ————一気に距離を詰めて来た。それも無表情で、淡々と。

 違和感丸出しだ。厳しい表情のまま甘えた行動を取ってきて、表情と行動が一致していない。

 そして、夜になり、俺が寝室で寝ていると——、

 トントンッ、とドアをノックする音が聞こえた。

「……誰だ?」

「プライドです。聖霊王様、入って宜しいですか?」

「……ああ……」

 扉が、開かれる。

 そこに立つプライドは、黒いキャミソールしか来ていない。脚や胸元がはだけている。

普段の白い羽衣はごろもを纏っている時以上に、セクシーな姿。

「こんな時間に……何の用だ?」

「分かりませんか? 女性が夜にこんなはだけた服装で男性の部屋に入ってくる理由。貴方様の寵愛を受けたく、参りました」

「昨日はあんなに俺の事嫌っていたのに、急にどうした?」

「今朝申し上げた通りです。七聖霊の一人としての自覚が芽生えたのです」

「……兄に楽な生活を送らせる為か?」

「な……なぜソレを!?」

「悪いな。昨日、お前の霊力を追って、跡を付けていた」

「……そうか、忘れていた。聖霊王には『私達を武器化する能力』ともう一つ、『鋭い霊力探知能力』がある事を……」

「何だって?」

「何でも無いわ。それで、私をどうするワケ? 七聖霊からクビにでもしてみる?」

「……そんな事はしない」

「昨日の兄と私の話、聞いていたのでしょう? 私は貴方を暗殺して、自分が王になるつもりだったのよ?」

「……知ってると思うけど俺、聖霊王として生きた1700年分の記憶が無いんだ」

「……」

「俺は、17歳の高校二年生……そこで記憶が止まっている。高校での俺は、無能な陰キャ。クラス内で空気のような存在……だった」

「……」

「お前ら七聖霊は、俺を有能な人間だと思っているみたいだけど、そんな事は無い。お前達に慕われるようなうつわじゃないんだよ、俺は」

「……何が言いたいの?」

「プライド、お前には、人間だった頃の記憶はあるか?」

「……ある」

「相当優秀な人間だったんじゃないか? お前程の美貌と器用の良さならば。料理も上手いし、家事も出来る。その上、知的に物事を論理立てて考える」

「……人間の魂が、現世の体と知性を引き継いで天界に来るなんて、誰か言ったかしら?」

「俺の体と知性が、人間だった頃と同じなんだ。当然、引き継いで天国に来ると考えられる」

「……ええ、貴方の言う通り。私は、人間だった頃も、常に優秀な人間だったわ。高校では生徒会長に選ばれたし、大学ではミスコンで優勝したりなんかもしたわ」

「そんなお前は……俺とは真逆の人間……いいや、真逆の霊だ。俺は落ちこぼれ。お前は秀才」

「それは人間だった頃の話でしょ? 今は違う。私は貧民街から産まれた落ちこぼれ。だから『七聖霊』になれるくらい努力して、優秀な霊である事を周囲に証明した」

「今の俺は、心が『無能な高校生』のままだから、『優秀な人間』としてのお前の気持ち、分かってやれないかもしれない。けれど——」

「!?」

「『貧民街から産まれた落ちこぼれ』としてのお前の気持ちならば、同じ『落ちこぼれ仲間』として分かってやれると思っている」

「記憶を失った今の貴方は、私と出逢ってまだ間もない。何故そこまで……?」

「それは、人間だった頃、誰かに何かを与えられる程、俺に力が無かったからだよ。今は、お前達『七聖霊』の力になってやれる。そういう異能が、今の俺にはあるから」

「……私の兄は……」

「……」

「私の兄、誇郎ころう兄さんは、私の備わっている高い霊力に、私が赤ん坊だった頃から気づいていた。あの兄と私は、実は100歳も年の差があるの」

「……」

「兄は私以上に、両親に苦労させられた。仲が悪くてね……最期は刺し合いになった……らしいわ、兄から聞いた話だと。私はまだ赤ん坊だったから、両親の事あまり覚えていないの」

「お前は、兄をどうしたいんだ?」

「幸せになって貰いたい。私を利用しているような兄だとしても、私が大人になるまで男手一つで育てて貰ったのは、事実だから」

「霊界は、霊力の高さが全て……だよな? 富むか、貧しくなるかも」

「ええ。兄は霊力がからっきし。だから腕っぷしで成り上がる事は出来なかった」

 俺の憶測だが、霊界の男は女以上に、霊力の高さがモノを言うのかもしれない。

 ……「霊力による社会的地位」について、一つだけ疑問が残る。

「俺って、霊力あまり高く無いんだよな?」

「高くは、無いわ。でも代わりに、貴方には特殊な霊能力がある」

「つまり、特殊能力を持つ霊ならば、高い社会的地位を得られるという事か?」

「……何が言いたいの?」

「特殊能力は、霊それぞれが持って生まれた、先天的才能なのか?」

「先天的な場合もあるし、後天的な場合もあるわ。ある日突然、特殊な霊能力に目覚める事なんかも……」

「もう一つ、質問したい。俺の能力は、『七聖霊を武器に変える能力』なのか? それとも————『全ての霊を武器に変える能力』なのか?」

「……その質問の答えは、後者よ。貴方は霊ならばどんな存在でも武器に出来る」

「……もし、霊としては弱いヤツでもさ、武器になったらメッチャ優秀なヤツだったら、社会的な価値が産まれると思わないか?」

「貴方、何を考えているの?」

「お前の兄に、俺を会わせてくれよ」

 と、その時——、

「聖霊王様! 敵襲です! 突如、悪霊共が転生街てんせいがいに出現しました!」

 ラストが走って、俺の部屋の前までやってきた。

「……って、アレ!? 何故プライドが聖霊王様のお部屋に? それも、そんな露出度の高い恰好で……。ま……まさか!?」

「違うぞ、ラスト。誤解するなよ、俺とプライドは、まだそんな関係じゃ……」

「『まだ』!? 今、『まだ』と仰いましたよね!?」

「おい、先走るなよ、ラスト」

「……申し訳ございません、取り乱してしまって。よく考えたら、聖霊王様が私達の事をお好きにするなんて、当然の権利でございました。ただ、まだ私は聖霊王様に抱いて頂いた事が無かったので、抜け駆けされて気分で、つい嫉妬してしまいました……」

 ……記憶喪失前の俺、まだラストには何もしていなかったんだ……。

「で、敵襲とは?」——と冷静にプライドが問う。

「あ、そうです。突如、次元を突き破って、悪霊共が大群で攻め行って来たのです!」


 夜の転生街てんせいがいに、俺達八人は駆けつけた。町中に火の手が上がっている。

 褐色肌に、黒い翼を生やした、白目の女性達——悪霊共が、一般の霊達を次々襲う。

「敵の数が多過ぎます! 聖霊王様、ここは我々、手分けして駆除していきましょう! 聖霊王様の護衛にはプライドを。残る六人は、バラバラの方向に!」

「お前達は、たった一人ずつで大丈夫なのか?」

「敵は雑兵ばかりです、問題ありません。聖霊王様は、どうかプライドを上手くお使い下さいませ」

 その言葉を最後に、六人は散り散りの方向へと走り去った。

「さあ聖霊王。私達も行くわよ」

 プライドは、俺の手を優しく握り——、

「【我が名はプライド! 聖霊王の『誇りの双剣そうけんなり』!!】」

 プライドの体が光り、形を変えていく。

 小さく、小さく、小さく——。

 俺の手の中に納まったのは——、

 一本の、短剣。

「アレ? 今、双剣って言わなかった!? 一本しか無いんだけど!?」

『私にも分からないわ! 100年前、一度も貴方に武器化して貰った事無かったから、今回が初めてなのよ!』——右手に握る短剣が喋る。

「「ギシャア!」」——二匹の悪霊が、同時に俺達に襲い掛かる。

 俺の右手が、俺の意思に関係なく、自動で動き——、

 悪霊二匹を八つ裂きにした。

 その動きは、とてもじゃないが俺が自分の意思で出来る筈も無い、キレの良い動き。

「プライドお前……戦闘のセンスがスゴイな」

 ラースを武器化した時も、俺の意思に関係なく、俺の体は動いた。

 あの時はヤンキー娘らしい、『剛』の動きだったが、プライドのソレはラースと対をなす、『柔』の動きだ。敵の攻撃を流して、そのまま押し返すような——。

『どう? 私、他の聖霊達より使えるでしょ?』

 ラースは力業で攻める戦闘スタイルだった。プライドより霊力も高かった。

しかしそれ故、一対一には向いているが、複数戦闘には向いていない印象。

 反対にプライドは、ラースよりは霊力が劣るが、無駄な動きを抑えたような戦闘スタイル故、今回のような複数戦闘の方に向いているのかもしれない。

 攻撃を正面から受け入れるタイプのラースに対し、攻撃を受け流すタイプのプライド。


 火の街を進むごとに、俺とプライドは悪霊を一匹一匹切り刻んで進んだ。

 プライドは今、俺の体は借りて、ある場所に向かおうとしている。

 それは、彼女の実家……兄の居る家だ。

 総勢50匹は切り刻んだ所で、古びた小屋に着いた。

 小屋の前で、女型の化け物と、筋骨隆々の男が戦っている。

『兄さん!』——短剣姿のラースが叫ぶ。

「ん? 誰だアンタは!? 今、どっかから誇里ほこりの声が……」

『兄さん、ここよ!』

「また誇里ほこりの声だ。……てか、アンタもしかして聖霊王!?」

「……そうだが?」

「なっ! なんでそんなスゲェ人物がこんな所に……!?」

 よそ見するプライドの兄に、悪霊が牙を剥き出し、噛みつこうとする。

 その瞬間を、俺……いいや、プライドは見逃さず——、

 彼の前に立ち、短剣と敵の牙を衝突させる。

『……兄さんとこの男を、誰にも傷つけさせない!』

 叫ぶプライド……短剣が、悪霊を口の中からぶった切る!

 一刀両断された悪霊が、透明になって消滅していく。 

「聖霊王の武器になったって事は……誇里ほこり、お前……俺を裏切ったか?」

『違うわ兄さん、私は……』

 彼女が二の次を言う前に、空に次元の風穴が出来た。

「何だ、あの穴?」

『アレは霊孔れいこう……この天界と悪霊界、人間界を繋ぐトンネルよ。あの穴を閉じ開き出来るのは、私達「大罪の七聖霊」並みに上位の霊的存在のみ……』

 その時、空に空いた穴の中から——、

 一人の少女が、俺達の居る地上へ降り立った。

 その少女は、黒い翼に褐色肌をしている。悪霊達と同じく。

 違うのは、服装だ。黒いゴシックドレスを着ている。

 今までの悪霊共は全員ビキニスーツで、露出度が高かった。だがこのゴシックドレスを纏う少女からは、ちゃんと理性を持つような印象を受ける。

「……久しぶりね」——悪霊が、喋った。

 今まで、獣のような呻き声しか出さなかった悪霊で、初めて喋る個体を見た。

「……何者だ、お前?」——少女に問う。

 明らかに、他の理性無き化け物とは、一線を画す存在感。

「久しぶりね、聖霊王ちゃん」

「誰だと聞いている」

「忘れちゃったの? アタシが誰か」

 更に、風穴の開いた空から、白目を剝いた、獣感に溢れ出た女性が二匹、地上に降り立つ。

 二匹は、ゴシックドレスの少女の隣に立っている。

 彼女を襲う気配を見せない。それどころか、彼女が二匹を従えているような印象さえ受ける。

 ゴシック少女がその『二匹の女性』の首を絞めると——、

 二匹の女性——悪霊が、姿形を剣に変えた。

(これは、あの少女が剣に変えたんだ)

 霊的存在を武器に変える能力……こんなのまるで……、

「『まるで俺みたい』……とか思った?」——ゴシック少女の、子供のような笑み。

「なあ、プライド。コイツは……この少女は……」

『今のを見たら、ヤツが何者か、もう分かっているでしょ?』

 そうか、そうなのか。

 コイツが……この少女こそが、俺達の倒すべき敵……。


「アタシが……悪霊王あくりょうおうだよ、聖霊王ちゃん」 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ