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傲慢(ごうまん)の聖霊、プライド

 天界の聖霊城せいれいじょう——俺の所有物である城に戻った、俺ら八人。

 玉座で脚を組む俺は天井を見上げ、ここまでの情報を脳内で整理する。

 高校生だった俺は一度死んで、あの世である天界に来た。

 天界では俺は超エリートで、天界の一番偉い人……『聖霊王せいれいおう』となった。

 ところが『悪霊王あくりょうおう』なる、俺と対をなす敵のボスと相打ちした事で石像となり、100年の眠りについた……らしい。

 で、現在100年の眠りから覚めて、あの世での記憶を失っているのだと。

 そう、今俺の目の前でかしずく七人の少女が主張している。

「私達が聖霊王様にお願いしたい事は——」

ロリっ娘ママ属性の少女、ラストが口を開き、

「今頃、どこかで目を覚ましただろう悪霊王を、今度こそ貴方様のお力で討って欲しいのです」

「ウチらの情報網でも、現状悪霊王の居場所を突き止め切れていねえ」——と不良娘、ラース。

「なあ、何で100年前の俺は、その悪霊王を殺さずに封印したんだ?」

「殺さなかったんじゃねえ。殺せなかったんだ。敵の司令塔と自らを100年の間封印する魔術を用いる事で、当時の天界VS悪霊界の戦争を終わらせたんだ」

「それだけ、悪霊王は恐ろしい存在という事です」

「じゃあ……またその悪霊王と戦っても、相打ちになっちまうんじゃ?」

「あの時、私達は貴方様のお側に居る事が出来る状況ではありませんでした。もうご自覚だと思いますが、貴方様は『私達聖霊を武器化する』能力をお持ちです。私達を使用する事で、高い武力を発揮する事が出来ます」

「けれどアンタ一人だけじゃ、あんまり強くねえ。さっきの中級悪霊との戦闘で、体が理解しているだろ? アンタあってのウチら……ウチらあってのアンタだ」

「つまり100年前の俺は、お前達『七聖霊』が傍にいなかったから、やむなく封印という手段を取ったワケか」

「今度こそ悪霊王を討ち倒し、天界と人間界に平和をもたらしましょう。私達七人は、次こそ貴方様を護り切ってみせます」

「……ラスト、気合いが入っている所、悪いけど、悪霊王を探し出す目途は立っているの?」

 そこで初めて声を上げたのは、長い黒髪で、キリリと鋭い目をした少女。右手に古書を携帯している。

「……いいえ、現状はまだ探し出せていません、プライド」

 プライド……傲慢ごうまん。彼女は、傲慢を司る聖霊か。

「作戦は論理的に立てなくてはならないわ。100年前、聖霊王と悪霊王が一対一タイマンした場面を、私達七人の誰も目撃していない。私達が発見したのは、石化した聖霊王の肉体のみ。あの戦争の後、石化した悪霊王の肉体を、誰がどこへ持ち出したのか分からない。悪霊達が持ち帰ったならば、悪霊界にあるでしょうし、聖霊王の存在を気に入らないと思っている天界人てんかいびとの誰かが持ち帰ったならば、この天界のどこかにある可能性もある」

 推理を始める、黒いストレートロングの美女、プライド。彼女は、身長も俺くらい高い。

「あるいは人間界に隠されている可能性すらあるわね。広さだけ見るならば、天界や悪霊界より、人間界の方が広い。人間界の日本なのか、アメリカなのか。砂漠にあるのか、氷山にあるのか……」——頬杖を付いて思考を繰り広げるプライド。

「テメエは何が言いてえんだよ、理屈屋のプライドさんよお」

「私はこう言いたいのよ、お馬鹿のラース」

「ああ!? 誰がバカだって!?」

「私達は聖霊王が眠っていた100年間、聖霊王の肉体を護衛しつつも、石化しているだろう悪霊王の肉体も、隈なく探し回った。けれど結局、今日に至るまで見つからなかった。聖霊王が眠りから覚めたからって、敵の親玉の居場所が見つかるワケではない。奴らとの戦争において、アドバンテージが出来たワケではないと言いたいのよ」

「お前よお!! 100年ぶりに俺らの切り札が目覚めたってのに、少しは素直に喜べねえのかよ!?」

「私、正直100年前、その男の事、キライだったもの。いつも偉そうにしてて。私達七人の事、文字通り、ただの『道具』としか、思っていなかったと思うわ」

「俺って、そんな性格だったのか、ラスト?」——一番優しそうな彼女に、小声で問う。

「そうですね……今、記憶喪失の聖霊王様と比べると、少し自信家過ぎたかもしれませんね」

「『傲慢ごうまんの聖霊』を冠する、この私なんかよりよっぽど傲慢な性格だったのよ、貴方は。記憶喪失の今の方が、よっぽどマシ。しばらくはそうやって大人しくしていて欲しいわ」

「おまっ! 仮にもコイツは俺らの隊長だぞ!? 敬意を払えよ!」

 ラースよ……隊長に対して「コイツ」呼ばわりする部下も、あまりいないと思うぞ。

「……ねえ、貴方」——プライドが、ツカツカとヒールの足音を立てて、俺に近づく。

 俺を睨む彼女を前にして、俺はゴクリと唾を飲み込む。この子、何か怖い。

「貴方が100年前に私に何したか、覚えてる?」

「……ゴメンなさい、覚えてません」 

「もし記憶喪失じゃなくて、しらばっくれているだけだったら、金的入れている所だったわ」

 それを捨て台詞に、彼女は長い黒髪を翻し、どこかへ去って行った。

 大罪の七聖霊が、六人になってしまった。

「……ねえ……100年前の俺、あの子に何したの?」

「聖霊王様、この天界には、とある一つの法律が存在します。『何人なんぴとも、聖霊王の御身を拒む事は許されない』という法律です」

「『御身を拒む』……?」

「テメエがエッチしたいって要求したら、誰も断われねえってコトだよ!」——ラースが叫ぶ。

 ラスト含め、七聖霊の数人が頬を赤らめる。ラースの方がよっぽど色欲を担当出来そうだ。

「ウチ、アンタに『ウチのハジメテ』上げた時、滅茶苦茶ハズかったんだからな」——内股になり、頬を赤らめるヤンキー娘。

 ——今の俺には、童貞高校生だった時の記憶しかない。あの世に来て、無事俺は童貞を卒業出来たのか——。

「私が彼女から聞いた所に寄りますと、100年前、プライドの寝室に、聖霊王様が夜這いに来たのだとか」

「夜這いって……俺にそんな事出来ないよ!」

「プライドは、誰よりも自分に誇りを持っています。彼女は、他人に自分の体を安く売ったりしない。例えそれが、聖霊王様相手であっても……」

「つまり100年前、俺が寝込みを襲ったりしたから、俺の事が嫌いなのか……」

 そりゃ、嫌われても仕方無いわ。昔の俺、何やってんだよ……。

「私達『大罪の七聖霊』は、基本的に世襲制です。親から子へ、子から孫へ。霊力は遺伝しますから。私もラースも、他の『七聖霊』も、母が『七聖霊』でした。城の中で育ち、城の中で『七聖霊』に就任しました。そんな私達とは反対に、プライドだけは転生街てんせいがい出身……俗に言う『成り上がり』なのです。悪く言うと『親の七光り』で『七聖霊』に就任した私達六人より、人一倍自分に自信を持っています。温室育ちの私達以上に、この天界全体を見通せている筈です」

「もしかしたらアイツ、次期『聖霊王』の座でも狙ってんのかもしれねえな。だからアンタの事、嫌ってんのかも」

 貧民生まれの貴族……って所か。

 人間だった頃の俺の家は、裕福でも貧しくも無い、中流家庭だった。

 だから、極貧から成り上がった人間の気持ちは、分からない。

 けれど、クラスでイジメられて、不登校になった。

だから、落ちこぼれだった奴の気持ちならば、少しは分かる。


 俺は走って、プライドの跡を追った。

 高い霊力を持つ者は、霊力の痕跡が残る。その痕跡を追う事で、俺は彼女を追う事が出来た。

 彼女を追って、着いた場所は——、

 転生街てんせいがい——言い方悪く言うと、貧民街だった。

 プライドの霊力の痕跡を頼りに、進む。

 進んで、進んで、進んでいくと——、

 ポツリと、古びた小屋に辿り着く。

 小屋の中から人の声が聞こえる。この声は——。

 中をコッソリ覗き見ると——、

 長い黒髪の少女、プライドと、野生染みた筋骨隆々の男がいた。男の服装はみすぼらしい。

「久しぶりだな、誇里ほこり。随分裕福な暮らししているみてぇじゃねえか」

「……誇郎ころう兄さんには感謝しております。育てて貰った、御を……」

「で、お前はいつになったら聖霊王に就任して、俺に楽な生活させてくれるんだ?」

「それは……」

「死んだお袋と親父に代わって、幼いお前を育てたのは……この俺だよな?」

「……ハイ」

「俺がいなかったら、お前は今頃『七聖霊』なんて大層な身分になれず、飢え死にしていた。……違うか?」

「……仰る通りです」

「お前には、俺に楽な生活を送らせる責任がある。なのに今日まで、俺はお前のいる『聖霊城』に脚を踏み入れる事も出来ず、こんなクソみてぇな街でひっそり暮らしている。誇里ほこりよ、そろそろお兄ちゃんを楽にさせちゃくれねぇか?」

「……先日、聖霊王は100年の眠りから目覚めました」

「……ほお?」

「彼を篭絡し、『大罪の七聖霊』の中で一番の権力を手に入れてみせます。その後、彼を暗殺すれば、ナンバーツーである私が『聖霊王』の座に就任出来る事でしょう」

「……期待しているぜ、妹よ」

 俺は足音を立てず、その場から去った。 


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