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(4)



(こいつは十分怪しい。何故、空を見ている)

 巡査の胸の鼓動が早くなる。

 ドクンドクン、波打つ音が鼓膜奥に聞こえる。巡査はごく普通に迫りくる人物を呼び止めた。自転車を押しながら空を見上げているマッチ棒の若者を。

「…あぁ、君ぃ」

 焦りを見せない様に努めて言葉を低くして声を掛けたが僅かに声が喉奥に引っかかる。そして引っかかるものを一気に吐き出すように巡査は声を張って言った。

「ちょっとといいかな?」

 意外に大声になった。それは明らかに相手にお前は不審者だという懸念を見破られても仕方がないくらいに。

 巡査は少し焦った。

(…逃げられるかも)

 だが近寄る若者は警官に呼び止められているのがまるで自分ではないという素振りで、空を見上げたまま過ぎようとしたその態度を見て巡査の心に火が点く。

(おのれっ!!)

「待て…‼」

 戸田巡査はそこで極めて冷静になった。彼は若者に近寄ると肩を力づくに押さえて唸る様に言った。

「おう、君。待てと言ったろうが」

 そこで若者は初めて我に返る様な表情になって、眉を寄せると警官に言った。

「えっ、ちょっと何です?」

 縮れ毛の髪が揺れている。

 巡査は思った。

 成程、アフロというものはこうも人によって特徴が違うのか。自分もアフロヘアの有名人は知っている。ジミヘンドリックス、ロッキーのアポロ、デビューの頃の井上陽水。だがこの若者は生来の縮れ毛の所為なのか、確かに田中ひよりが言ったようにマッチ棒の様に丸くなっている。 

 そのマッチ棒へ巡査はにじり寄る。

「君、ここら辺の者じゃないな。どこから来た?」

 まず巡査は自分の日々の警ら任務の中で培われた記憶から不審者を探り出そうとマッチ棒へと問いかけた。

 勿論、


 ――こんなやつ、知らない。


 という確かな証明(アリバイ)を得るために。


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