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オレの友人の話をしよう 5

「上がったな」

昼過ぎから急に降り始めた雨はさっと大地を濡らして通り過ぎただけの様だ。雨露に濡れた庭がきらきらと光を返していた。戸を開けて外の様子を確認したオレは振り返った。

「おつかい、行ってくれるか?」

テーブルで絵を描くことにも飽きていた様子のティナはこく、と頷いた。


ティナの肩掛けバッグに瓶をふたつほど入れてやる。小さいながら庭の畑で取れた野菜を漬けた自家製のピクルスだ。ティナは足取り軽く出発した。

もう何度も行き来している、行き慣れた道だ。何なら近道だって知っている。

途中で思い付いて、ティナが小道を外れひょいと茂みをくぐると、その小さな姿はもう誰にも見えなくなった。


戸口の前の小さな階段を登って、トントンとノックする。

やや待って、もう一度トントンとすると奥の方から声が聞こえた。いつもならすぐ開くドアが、それからたくさん待って開いた。

「ごめんねー、急に降られたもんだから・・・」

ドアを開けてくれたメイリの首にはタオルがかかったままだった。温かな空気がメイリから伝わって来る。お湯から上がったばかりのようだ。メイリは快くティナを迎え入れてくれた。

ティナが瓶を渡すとあら、ピクルスねと嬉しそうに言って奥の戸棚に置いた。ふわっとハーブのようないい香りが通り過ぎた。いつも耳の横でひとつに編み込まれている髪が今は解かれ艶々としていた。

「ちょっとあなた、どこ通って来たのっ?」

ぼうっとメイリを見上げていたティナを見て、メイリは改めてティナの惨状に気づいた。ティナの頭は雫をいっぱいくっ付けており、腕やスカートの裾にも沁みている。土が付いているところもあった。

「雨はあがったっていうのに、どうしてこんなことになってるのよ、もう」

メイリは真新しいタオルを取り出すとティナの頭や顔をごしごし拭いてくれた。




いい酒が手に入ったとやらで酒瓶片手に揚々やってきたチェリオと共に、日頃世話になっているメイリも呼んでささやかな宴会となった。

杯を重ねるチェリオの向かいで、一心に色を塗っているティナのお絵かき帳に髪の毛が落ちた。

「髪、・・・伸びたねティナちゃん」

「切ろうかって言ってんのに切らせてくれねえんだよ」

無造作にティナの前髪をかきあげるがすぐにほわほわと落ちていく。

「なんで。嫌なの?」

うん、とティナは頷く。

「前はどうしてたの?」

ティナは自分の髪をつかむとナイフで切る仕草をしてみせる。

「だからオレが切ってやるって言ってんのに」

ティナはううんと首を振る。頑固だ。メイリにピーンと閃くものがった。


数日後、ふたりはメイリの家に招かれた。装飾品の金属加工を請け負っているメイリの工房は、金属材料から作りかけの加工品から加工台や切削器具が所狭しと並んでいる。机の上でごそごそやっていたメイリがティナを手招いた。

ティナの前髪を一筋手に取ると耳の後ろにかけてピンで留めた。

「ほら」

手鏡を渡す。

花びらを模した薄い金属の土台に色の着いたガラスを流し込んで固めた簡単な飾りが映り込んだ。

ティナは大層気に入ったようだ。

「髪は伸ばしてんのよ」

「そういうお年頃かね・・・」


伸ばすにしてもきれいに伸ばさないとね。ちょっとずつ切りながら伸ばすのよ、というメイリの説得に応じて髪を切ることになった。良く晴れた日の午後、庭に椅子を出しティナを座らせた。

「こんなもんか、ほれ」

肩に落ちている髪を払い、首から下を覆っていた布を外し、手鏡を渡してやる。

あたまの後で、ひとふさの髪がリボンで束ねられていた。


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