オレの友人の話をしよう 4
ティナを教室に連れて戻っても、青年は一瞥しただけで変わった様子はなかった。
ティナも荷物を置くと勝手知ったる様子で子供たちの準備に加わる。
斯くして、何事もなかったかのように再び教室通いが始まった。
こどもたちに聞いてみると、あの日ひとりの子が教室に来る最後の日だったらしい。
別の街に引っ越すことになったようだ。
もうすこし、見てやればよかった。
ティナは以前にも増して写生に精を出すようになった。毎日写生に出かけていく。地面に寝っ転がって描いていたりするので、土や草をくっつけて帰ってくるのはしょっちゅうだ。そうこうして最初の頃に買ってやったドレスは大分くたびれていた。
どうすっかなと考えていると、ちょうどティナがとことこと休憩に帰ってきた。水差しからコップに注いでコクコクと飲み干している。
「これ、さ、もう、いいか?」
案外あっさりうんと頷いた。ちょっと考えて、ドレスを抱き寄せると、テーブルにあったはさみで花柄の模様だけちょきちょきと切り取っていた。
何するんだと思っていたが、数日して、壁の下の方にその布きれが張り付けてあるのを見つけた。なるほど、と思う。
この間町に出かけたとき、いつも休憩するなじみの茶店がいつもより騒がしく、女性客が多かったのだ。どうも模様替えをしたらしく壁一面に色とりどりの小花柄の壁紙が貼られていた。ティナもご多分に漏れず影響を受けたらしい。
壁の花柄は、翌日にもう一個、翌日にもう一個増えていた。裾の一部が切り取られ穴の開いたドレスで颯爽と写生に出かけて行く。
・・・壁紙を買って部屋の一部に貼ってやった。
ティナはその壁紙の前に陣取って一日中スケッチを始めた。色まで塗って執念でそっくりの花の絵を描き上げた。それが3枚、縦に並べられ隣の裸の壁に貼られている。
(・・・・・・わかった、わかったわかったわかった)
このようにして、冒頭の家ができあがっていくのである。