おわり
ヤボ用を思い出したのでティナを連れて片付けることにした。
出掛けるぞ、と声をかければいそいそと支度をして嬉しそうに部屋から出て来た。
白いレースのブラウスと赤い小花が散ったロングドレスでいつもよりめかしこんでいる。
まあ、帰りにどっか寄ってやればいいかと思いそのまま出かけた。
馬車は街中を抜け郊外に向かって走って行く。
だんだん家もまばらになり、広い畑が目立つようになってくる。
一軒の家の前で馬車を止め、ティナを伴って降りた。
ずんずんと遠慮なく庭先を進んでいく。
納屋で干し草を下ろしていた男は、ふとその手を止めた。
見知った人影がこちらに向かって来ているのが戸口から見えたからだ。
スキを立てかけて外に出る。
「よう」
見知ったその男とその背後に立つ少女のふたりの雰囲気で、そうとわかった。
結局、そういうことか、と。
特に挨拶の言葉も、説明もいらなかった。
ふん、とロイは鼻を鳴らす。
一歩踏み込むとまーぼうの肩を抱き寄せ小声でささやく。
「奥さんもうすぐ臨月だってなあ?」
ぎくり、と身を竦ませた。ティナに声をかけた頃にはとっくに結婚していなければ計算が合わないことになる。お前だって、やることやってんじゃねえかと。
子供ができることが分かって初めて、初恋の女の子への断ち切れない未練を覚えた切ない男心だったのだ。
「あんた、お客さんだって?」
お腹を大きくした女性が家の戸口からこちらへの小道をふうふういいながら歩いてくる。
「バカ!座ってろよ。無理することねえって・・・」
慌ててまー坊は近寄り肩を支える。
「そーんなこと言ったてねえ、いいかげんおべべ編むのも飽きてきたしちょいと動くくらいいいじゃないか」
どうやらのん気な奥さんらしい。
「昔の知り合いなんだろ?あいさつだけして帰すなんて薄情なことさ。お茶くらい出すからゆっくりしてもらいな」
お構いなくというロイの声は搔き消され、そういうわけでごちそうになることにした。
家の中は瓶詰のジャムやら調味料のポットやら鍋やら生活用品が並んでいたが、こざっぱりと片付けられていた。奥さんが腰かけた長椅子の横には、編みかけの毛糸が盛られた籠が置かれていた。まー坊は暖炉の火を掻き立てお湯を沸かしカップを用意しと細々と立ち働く。
ふたりの新婚生活を脅かすこともあるまいと気楽な話に終始し、いいところで切り上げて立ち去った。
ティナはお茶はいいと言うのでいつものパン屋に寄って買い込んで帰った。
お出掛できたのがうれしかったらしい。
まあ確かに、あの帝都散策のお出かけて以来、森の家に戻っていつもの日常を過ごしただけでどこにも出かけてねえしな。
たまには夫婦らしくどこかに連れ出してやるのもいいかもな、と道中で思うロイなのであった。
一見何の問題もないように過ごしているふたりに見えたが、差し当たって、ロイには新たな課題が持ち上がっていた。
「おめでたいのはいいとして、あんた式はどうすんのよ」
むむ、と痛いところを突かれた。
まあティナが気にしてるふうでもねえからいいかなーと思っているということをさりげなーく伝えたつもりだが、溜息を付かれてしまった。これだから男は、て意味だ。
「あんまり何かを言うような子じゃないから、気にしてないように見えるかもしれないけど、女からしたら一大事よ。好きな人と一緒になった記念日なんだから」
ううーん、やっぱそうか。
「こういうことはちゃんとしておいた方がいいわよ。後々まで響くわよ」
意味深な脅しもとい忠告により、開催される運びとなった。
家でというのもナンだし通っている教会もないしということで、ティナの卒業した学校で開くことになった。
ティナによくしてくれた先生がまだ居て、快く受け入れてくれた。
飾り付けは子供たちがしてくれることになり、お礼に式に招待するというと、俄然張り切ってやってくれた。子供から話を聞いた親たちも手伝ってくれ、式にも参加してくれることになった。思った以上のにぎやかさになりそうだ。
服だけは奮発した。街の仕立て屋で新郎新婦の純白の衣装を誂えた。多分、ティナが一番望んでいたことだ。
当日、子供たちの手によって色とりどりの飾られた教室で神父を呼んで誓いを行い、ひとつしかない教室の扉から出た。学校の鐘が鳴り、手籠の中から紙吹雪や花を投げて祝福してくれた。
ティナはつっとつま先立ちになると新郎の頬にキスした。
あのときのあいつの顔は見物だったな。
とまあこんな感じで、オレの話はここで終わりだ。
要は、後腐れのない飲み友が結婚して所帯を持ったってだけの話だ。
これから尻に敷かれるのか、喧嘩するのか、はたまたいつまでもラブラブするのか、それは読者の皆様のご想像にお任せする。
ってことで、また機会があればお目にかかるかもな!
達者で暮らせよ、まったな~!




