二部 その13(王子様、現る!5)
さすがこの界隈に生きる人間だけのことはある。
夜明けごろ、サラが反応した。
「迎えが来たみたい」
「・・・何でわかる?」
「足音が違うわ」
耳を澄ませてみたが表通りの風の通る音はしても足音は聞こえなかった。
程なくして戸口の前に人の気配が立った。トントンと控えめなノックが響く。
「サラ・バルザット様でしょうか?使いの者です。」
サラはすぐに戸を開けた。見覚えのある従者の顔は、王子の無事を見て取ってほっと緩んだ。
「アルベルト様、ご無事で・・・」
「なんとかな」
「参りましょう。主人がお待ちです。」
「リンの野郎、この貸しは高くつくぜ」
ティナを起こしながら低く毒付く。
「この辺りでは目立ちますので表通りに馬車を待たせております。ご案内します」
まあ、昨日見たところでは荒くれ共の寄せ集めのような集団だったので、こんな朝も早から探索に出るような働き者共ではあるまい。昨晩は獲物を取り逃がした腹いせに酒をかっ食らい、今は鼾をかいて寝ていることを祈る。
一行が戸口をくぐると、最後尾にいた従者がふと室内を振り返った。
「主人から伝言を預かって参りました。助かった。この礼はする、とのことです」
プチっとサラは切れた。従者の首元をひっつかんで揺さぶる。
「礼はするって言うなら金輪際あたしを巻き込まないことね!!それがあたしに対する礼ってモンだわ!何回目だと思ってんのよ毎回毎回!レディの部屋をいいように使ってんじゃないわよ!帰って主人に伝えな!2度とあたしを巻き込むなってね!!」
「し、しょうち、っしました」
鼻息荒くサラは男の襟元から手を離した。気の毒な従者は襟元を直し、何事もなかったかのような顔に戻って部屋を出た、途中、見送りに付いて来ていたサラが急に足を止めた。
「ちょっと待って。あんたたちそのまま行く気?」
「・・・なにか?」
さらははあーっと深い溜め気を付いた。ぐいっと親指で後ろを指し示すと振り返って歩き出した。
「・・・付いてこいってことだな、こりゃ」
サラは廊下の突き当りを曲がって一番奥まで行くととんとんとドアをノックした。
「・・・サラかい?」
「ばあちゃんお願い」
ドアが開き老婆が姿を見せた。後ろの4人をじろじろ見ていたがま、仕方ないねと言って通してくれた。
「ほら、お行き」
老婆が開いた奥のドアは別の通路に繋がっていた。目を白黒させる一行をサラが送り出す。
「行きな。みんな通してくれるから」
事情を察した従者が一番最初に踏み込んだ。
その後ろにみんなが続く。ドアを閉める直前ロイが振り向いた。
「サラ、ありがとな」
にまあとサラは笑った。
「いいよー?うわさのかわい子ちゃん見れたことだし。お幸せにねー」
ロイは一瞬うわ言うんじゃなかったという顔をした。首の後ろをガシガシと搔く。「ま、とにかくありがとな。」と言ってドアは閉まった。
あんな照れてるの初めて見た・・・
閉まったドアの前で動けないでいるのを、老婆の手が優しくテーブルに誘った。温かいお茶が置かれる。お茶を取るはずの手は、しばらく動かなかった。
言葉にできない想いを、長い時を重ねて来た時間が静かに受け止めてくれた。
サラの言葉通り、何も言わずともドアはつぎつぎと開いて4人を通してくれた。どこの廊下か誰の部屋かもわからない場所を通り、最後に聞かれた。
「どっちだい?」
「あの、ハロニエ通りに」
「だからどっちだい」
「グランカフェの前に」
言い終わる前に放り出された裏口はどん詰まりになっており、仕方なく表通りに向かって歩いた。細い路地を抜けるとそこはもう件のカフェの角だった。狐につままれたような顔をしている一行の前に、馬車の陰から兵士が現れた。
「あ、隊長。お待ちしてました。一体どちらから」
「・・・話は後だ。とにかく行こう」




