二部 その10(王子様、現る! 2)
星祭りの夜に贈られる花束の話には続きがあって、花を贈られても嫌なら受け取らない。それをティナは後生大事に持って帰ってしまった。あまつさえ紫の花束は特別で、受け取った花束を相手に返すのは、あなたと一緒になってもいい、という意思表示なのだ。もともとそこまで意味があるものではなかったが、花束を受け取った娘が翌日、あなたと交際してもよいという意思表示と共に相手に返しその場で相手が求婚したという噂が流れ、若者の間でその習慣が流行り始めてしまった。
この話はロイが断固拒否を示したことにより、二人の間ではしばらく平行線の議論が続いた。
一度受け取った花束を返されたのだから結婚を申し込んでもいいはずだ!
ティナは分かって受け取ったわけでも返したわけでもねえ!
受け取ったのは受け取ったのだから、せめて付き合いくらいは認めるべきだ!
ふたりが睨み合いを続けているところへ、調度よく、運悪くやってきたのがチェリオだ。
「あれ?どったの?お客さん?」
すごい目つきでロイに睨まれた。
よく話を聞いてみれば何でも幼少の頃は病弱で、毎年夏は別宅に静養に来ていたそうだ。
病気ばかりしてベッドに寝ていることが多かったため発育が悪く、年齢よりも随分幼く見られることが多かったらしい。
成長して体も丈夫になり病気もしなくなったことから、幼名は縁起が悪いと改名したそうだ。
後からやってきたチェリオにも自己紹介含め経緯を説明する。
「そういうわけで、ティナ殿に結婚を申し込んだところだ」
「けっこんじゃなくて、こうさい、な」
ずずっと茶を啜る。
「これは申し訳ない、気持ちが先走ってしまったようだ。だが、私の気持ちは同じこと。お付き合いしてもしティナ嬢がよければ結婚を申し込みたい」
ずず、とまた茶を啜る。
この論争は、ティナと1日街中観光をということで決着がついた。ティナはまだ子供である、という主張に相手が怯んだのだ。もちろん王子の従者、こちらは保護者付きである。
そうと決まると王子様は颯爽と帰って行った。
ちなみにティナは話の途中からさっさと姿を消し写生に出かけていた。
あまり・・・興味がないらしい。
王子様の帰った後を片付け、苦い顔でもう一度茶を入れなおす。
「いいじゃねえか、デート1回で話ついたんだろ?」
「おでかけ、な」
「しつこいねーお前も」
あの時チェリオがいいじゃねーか、とティナに花を持ち帰らせたことをまだ根に持っているのだ。
むかしから何事にも執着しない性質の男だと思っていたが、こんな奴だったか?
だいたいスタイン家と言えば王家の中で筆頭家令を務める本家本元の貴族だ。元をたどれば王や王女に行きつくのであって、この青年は本物の王子様なのだ。この跡取り息子と結婚すればティナは将来公爵夫人。世の親なら泣いて喜ぶだろうに。
「なにが気に入らねえんだよ」
ロイは眉根を寄せた。
「・・・どうも、くせえんだよな」




