二部 その6
窓ガラスからいっぱいに朝日が差し込んで室内を明るく照らす、よく晴れたいい朝だった。
ティナは昨晩はしゃいで疲れたのか、まだ眠っている。
コンコン、と玄関のドアが鳴った。
出てみれば、こんな明るい朝にふさわしくない暗く思い詰めた表情の青年が立っていた。何か話があるらしいと察し家へ招き入れる。テーブルにつかせて、沸いたばかりのヤカンからお湯を注いでお茶を出した。
まー君の話は直球だった。
お茶を出して少しの間は何やら気持ちが揺れて考えていたようたが、決意を固めたのか急に硬い声ではっきりと聞いた。
「あんたティナが好きなのか?」
おっとう・・・・・・青年らしい率直さだ。
「・・・そりゃね、血はつながってなくても家族だからね」
当たり障りなく返し、湯気を飛ばしお茶を流し込む。
「そうじゃねえ!オレはっ・・・」
言葉を継げなくて黙り込む。言葉を探しあぐねて幾分迷っていたがまた聞いてきた。
「あんた、ティナと結婚したいのか」
あやうくお茶を吹くところだった。咳を抑えながらカップをテーブルに戻す。
「ッ・・・ティナと?ゲッホ・・・オレが?・・・それは、ちょっと、・・・考えたことはないかな」
まー君はこれまで俯いていたがきっと視線を上げた。その眼には強い反乱が見て取れた。
これまで自分をデートに誘わせたりティナを仕向けたりしていたのに、最後の最後になって搔っ攫って行った。どういうつもりだ、というのは至極当然だ。痛いほどわかる。・・・当然だが・・・どうしたもんかな。
煮え切らないオレの態度に、実直な青年の堪忍袋の緒が切れたらしい。
ガッと立ち上がるとオレの胸倉を掴み上げた。
「あんたティナをっ!っっが!」
青年の方が床に転がった。
「あ、わりっ」
条件反射で一発入れてしまった。テーブルを回って倒れた青年に慌てて歩み寄る。若かりし頃に酒場の揉め事で鍛えられた技がこんなところで発揮されようとは。
「あんた、いい加減にしろよ!!!」
起き上がりざまに体当たりされ、背後のテーブルごと転がった。
咄嗟に受け身を取ったので床との衝突はさほどでもなかったが、これはティナが目を覚ますな。
案の定、すぐにドアが開きティナは惨状を目撃することなった。
青年の怒りはまだ収まらない。
「一体どういつもりでっ!!」
肩を怒らせ真っ赤になってオレを見下ろしている。その気持ちはわかる。痛いほどわかる・。
・・・悪いのはオレだ。
転がっているオレのそばに来ようとするティナを目で止める。
「いいんだ・・・オレが悪いんだ。」
その時になって初めてティナがいることに気づいたらしい。青年はティナに見られたことで少し落ち着きを取り戻した。ティナを部屋に押しやってテーブルを戻し、転がった椅子も立て直してもう一度青年と向き合う。その眼は、まだ強い怒りを宿していた。
これは誤魔化せねえな・・・
オレにしては珍しく、非常に実直に吐露することになった。
「・・・少し、時間をくれないか?オレもまだ・・・うまく、考えられない」
大人らしいズルさで逃げようとするなら見逃さんとばかりに爛々と光っている。
「もう一度連絡する。約束する」
その言葉に渋々頷いて、青年は立ち上がった。
去り際にぽつりと言った。
「・・・あんた、喧嘩強いんだな」
酒場で鍛えられたなんてこの青年には自慢にもならないだろう。元はと言えばチェリオから習ったのだ。飄々としているがあれで喧嘩だけは滅法強い。だから便利屋なんて厄介ごとに巻き込まれるような仕事をしていられるのだ。
その晩、ベットに入って寝付いたと思った頃、そっとドアが開き音もなく侵入者が忍び込んで来た。侵入者はベッドに潜り込もうとぞもぞし始めたので、仕方なく上掛けを被せて中に入れてやった。
以前はしょっちゅう潜り込んで来たが最近はめっきりなくなっていた。今日のことが不安になったのだろう。仕方がない。
「寝ろよ?」
小さなふくらみはウンと頷いてオレの胸元に顔を埋めた。




