オレの友人の話をしよう 2
ティナを町の絵画教室にいれたい。友達もできるかもしれない。
早速張り紙の主に話を聞きに行ってみた。が、喋れないとわかると門前払いを喰らった。その後も、町に買い出しに出る度に張り紙を探しては話をしに行ってみた。どこも似たような反応だった。
「絵画教室生徒募集」
書き殴っただけのヘタクソな字で、その張り紙を見たのはそんなときだった。
(行ってみるかあ・・・)
ダメ元で張り紙の隅に小さく書かれていた建物を訪ねた。
古びた共同住宅の真ん中に中庭があって、庭をぐるっと囲むように住人が暮らしていた。
その二階の、最も奥まった日の差さない場所に、件の教室があるようだった。こういう場所は初めてなのか、後ろに隠れながらもティナは興味津々といった様子だ。
ところどころ剥げた床板に用心しながら奥へ進む。
つきあたりの物置らしい部屋で、まだ若い後ろ姿がもくもくと筆を動かしていた。足下には描きかけの絵がたくさん転がっている。うまい、と思った。絵のことはよくわからないが、それでもこれまで訪ねたどの絵画教室よりもうまいと思った。線に勢いがある。
「すみません、あの・・・」
骨張って目つきの鋭い、寡黙な青年だった。教室に通いたい旨、話をして一回につきいくらだと言われ、名前を紙に書き留めて、それで終わった。
「あの、オレじゃなくてこの子が・・・」
ティナをちょっと見てこどもの日はこの日だ、と紙を指さした。
ティナは週に1回、そこに通うことになった。
ティナに友達ができた。安さだけが取り柄のそこは、共同住宅や近くの家の子たちが何人か通っていた。教室が終わると中庭を走り回ってひとしきり遊んで帰る。喋れないなりにティナも加わって一緒に駆け回っていた。共同住宅の住人ものんびりしたもので、駆け回っているこどもらをのんびり眺めているだけだ。
愛想のないぶっきらぼうな青年だったが、実力は確かなようで、ティナの絵はみるみる上達した。立体を表現するようになり色使いも様々になった。お絵かきが「絵」になり始めていた
「すみません、遅くなりまして・・・」
日が傾きかけた頃、いつもより少し遅れて迎えに現れたオレに、青年は軽く頷いただけで再び筆に戻った。そこへ、パタパタといくつもの軽い足音が走ってきた。
「あ、おじさん!」
「ティナ、帰るぞ」
ティナは頷き、笑いながら子供と一緒に駆けていってしまった。最近はオレが迎えに来てもなかなか帰ろうとしない。いつもなら帰る気になるまでひとしきり待つのだが・・・今日は急いでいた。
晩飯の材料が何もないのである。いつもの肉屋もそろそろ閉まる時間だ。
子供らも分かっているのだろう、門の方に向かいながら駆け回っている。その後を着いて行く。門の前で少し待ってみても、ちらちらとこちらを見てはいるがやめようとしない。呼びかけても来ないので、近くに回ってきた際に抱き上げて中断させた。
「はい、さよならして」
ティナは不満そうにしたが、一応手を振った。みんながバイバイと振り替えしてくれる。そのまま門を出て、少し歩いたところで降ろした。急ぎ足になるロイの横を、じっと石畳をみつめながら着いてくる。繋いでいる手が、いつもよりちょっと重たい。
肉屋にはなんとか間に合った。