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お仕事2

頭脳明晰で王様の覚えめでたい友人はこれまたさっさかと王様から謁見の許可をもらってきた。まあ、一度退いたとはいえ知らぬ仲でもない者がまた出仕するのだから予めの挨拶は必要だろう。


久しぶりに袖を通す。あの頃は毎日着ていた。

文様の入った金ぴかな袖のボタンを留める。襟元も留める。襟や肩や袖まわりにも飾り刺繍が入っている。

首や肩まわりがちょっときついような気がする・・・太ったか?

バタンとドアが開いて無遠慮に友人が入ってくる。こちらも正装だ。

「部屋は鏡の間だ。謁見儀礼は忘れてないだろうな?」

記憶をひっくり返してみるがちょっと妖しい。分からなかったらオレの真似をしていろと友人はさっさか歩き出す。王宮の部屋の中でも最上位の鏡の間を取ってくるとは、こいつらしい。肩に入っている金章の長い尾がひらひらと揺れる。出世したなー。


相変わらず金ぴかな広間に所在なく立っていたが、訪いを告げる声に出迎えの礼を取る。

「久しぶりだね、ロイ」

病死や頓死や出奔などでたまたま王位継承が転がり込んできた地方出身の気さくな王様は、オレを覚えていた。腰掛けた王座から気楽に声を駆ける。

「この度の再任用にあたり今生陛下へご挨拶申の儀、感謝申し上げます。再任用者より陛下へご挨拶申し上げます。」

リンに続いてすらすらと続ける。

「今上陛下拝顔の栄に浴し、御健勝にて御隆盛の由、ご同慶の至りであります。」

「なに、執政局は人手不足なんだって?昔のよしみでひとつよろしく頼むよ」

政治には疎いが気取ったところがないのがいいところだ。

「は、・・・君子万年、国家安泰の言祝ぎ申し上げます。」

じゃ、そういうことでと立ち去ろうとするので、立ち上がって見送りの礼を取る。


「おー肩こったっ」

儀礼が終わるとすぐさま上着を脱ぎ捨て、肩を大きく回す。

「相変わらずだな、そういうとこは」

こっちこそ、相変わらず七面倒くさいことやってんな、である。

「おい、」

奴がふいにあらぬ方向を見て言った。

「ぐずぐずしてないで出てこい」

何かと思えば飾り幕の後から、女性に背を押されるようにおずおずと小柄な体が現れた。

「あ、ああティナ」

そういえばあんなものもあったなと思い出す。会談や接見の際に策謀や暗殺を警戒して人を置いていくのだ。

ぎこちなく歩いてくるティナを腕に迎え入れる。初めての王宮だから緊張してんのか?

「元気そうだな、ん?」

こくと頷く。痩せている様子もないし、布地のいい上等な服を着せて貰って髪も整えられている。

「ちゃんとやってるか?なんか困ってないか?」

こくと頷く頭を撫でてやる。柔らかな手触りに久しぶりに触れた気がする。気を利かせて会わせてくれた割にせっかちな友人はもう扉の前で待っている。

「飯食ってよく寝ろよ」

こく、と頷くティナを離し、付いてきてくれた侍女に目礼だけして友人の後を追った。この後執政局の各部への挨拶回りを済ませ各部局から挙がってきている数字合わせに入る。奴はもう一度精査したいらしい。離れてた期間が長いから、勘が戻るか?



連れてきてくれた侍女によろしいですか、と促され元来た道を戻る。

王宮のサロンで開かれるお茶会に、ティナも連れてきてもらっていた。奥様がこっそり、行っておいでと送り出してくれたのだ。

髪を整え正装を着込んだロイは別人の様だった。姿勢も、振る舞いも、言葉遣いも完璧だった。ロイはすぐそこにいたのに、会えて嬉しいはずなのに、なんだか気持ちがゆらゆらしている。





官舎の空き部屋をと言っていた友人は大嘘つきだ。王様の覚えめでたい奴は業務上の都合ということで特別に、宮廷の片隅に私室を与えられていた。父親である侯爵から王様に口をきいて貰って、オレにも部屋を用意させた。実際官舎から通うより近い。というか、寝に帰る間もないほど忙しい。毛布を持ち込んで部局で寝泊まりする日もあるくらいだ。仕事の鬼の奴は、オレにも一切容赦がなかった。表向きオレが辞める前にやっていた地方領地の取引や税の集計が主な仕事だが、本当にそのまんま仕事を振ってくる。その裏で例のラスター派の金の動きも調査するもんだからキリがなかった。ほんとに終わるかコレ?


だが夜鍋して精査した数字は、奴の推測が正しかったことを現していた。

あちこちの葡萄園を買い付けて目くらましにしたつもりだろうが、奴の数字における勘は誤魔化せなかったようだ。細かく精査した帳面を付け合わせてみれば、そこに明かな違いが見て取れた。王都での荷動きや税収にはほぼ変化がない。

「どうする?」

「農園は貴族の所有物だ。王の許可がなければ立ち入れない。・・・証拠を集める」

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